第18話
カイはタルの町でずっと行方不明だったハンナと出会った。
彼女は薬屋の店主で熱の出たレティシアに直接会いたいと言った。
カイは悩んだ末にハンナを家に連れて行くことにした。
ハンナの馬はオルリと同じくらい、いい馬で速く走れた。これなら昼過ぎには着くだろう。
はやる気持ちもあったが、馬を休ませることも重要だった。小さな小川の近くで休憩をとった。
ハンナはカバンからパンを出してカイに渡した。
「ありがとう。」
カイは自分の昼ご飯のことなど忘れていた。
ハンナには聞きたいことが山のようにある。
それはルルやレティシアも同じだろう。
だからカイは、あえて聞かないことにした。
「レティは呪いにでもかかったんだろうか?」
「おそらく…そうですね。何かがきっかけとなり、発動したんだと思います。」
カイはその言い回しに違和感を感じた。しかしいろいろ聞くのは帰ってからにしようと思った。
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カイとハンナは昼過ぎに家につくことができた。
カイは2頭の馬を馬小屋に連れて行き、餌と水を与えた。
その間ハンナは家のまわりをじっくりと見ていた。
カイに促され、二人は家の中に入った。
「ただいま!」
珍しく3人は家の中にいた。
「お父さん!えっ?ハンナ…?ハンナなの??」
ルルはカイを押し避けてハンナに飛びついた。
「ルル、連絡しなくてごめんなさいね。」
ハンナは申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんなことどうでもいいわ!ハンナが元気でいてくれたなら!それでいいわ!!」
ルルはとうとう泣いてしまった。
「レティにも…会ってほしいけど…レティが…」
「レティシア様のところへ連れて行ってくれるかしら?」
ルルは涙を拭い、ハンナをレティシアの部屋に連れて行った。
ハンナはレティシアを見るなり、「二人きりにしてほしい」と言ってドアを閉めた。
「レティシア様、ハンナです。お辛いですね…。今、お助けしますからね。」
レティシアは熱で朦朧としていて応えることができないでいた。
ハンナはレティシアの手を握り祈り始めた。
「悪しきものよ、今すぐ立ち去れ。さもなくばお前を聖なる炎で焼き尽くす─。」
レティシアは苦しそうに、もがき始めた。
ハンナはレティシアの上に馬なりになって祈り続けた。
隣の部屋から「やめてー」と叫ぶ声が聞こえ、すぐに勢いよく玄関のドアを開ける音が聞こえた。
レティシアはもがくのをやめ、ハンナもレティシアの上から降りた。
熱っぽかった顔は少し赤みが消えてきたようにみえる。
ハンナはレティシアの両手を握り、「この者の傷を癒やしたまえ」と祈った。
するとレティシアはゆっくりと目を開けた。
「ここは天国?ハンナ…会いたかったわ。やっと会えたね。」
レティシアはハンナに抱きついてわんわん泣いた。
「レティ?!大丈夫か?!」
カイとケリーが慌てて入ってきた。
「あれ?カイとケリーもいる。天国にみんな来ちゃったの?」
レティシアは不思議そうにみんなの顔を順番に見た。
「レティシア様、ハンナです。生きておりました。」
ハンナはニッコリ笑い、レティシアを抱きしめた。
「大きくなられましたね。」
ハンナも涙を流していた。
二人はしばらく何も言わずに抱き合ったまま泣いていた。
「お腹が空いているでしょう。何か作るわね。」
ケリーは台所へと向かった。
「あれ?ルルとツキは?」
レティシアはハンナの手を握ったままルルたちがいないことに気がついた。
「それがな…いきなりツキが叫んで家を飛び出してしまったんだ。」
ルルはすぐに追いかけていったのだという。
「ただいま」という声が聞こえ、ルルはすぐにレティシアの部屋に入ってきた。
「レティ!!治ったのね!!」
ルルはすぐにレティシアに抱きついた。
レティシアはツキの姿がないことに気がついた。
「心配かけてごめんね。ハンナが治してくれたみたい。」
ルルはハンナに抱きつき、何度も「ありがとう」と言った。
「ツキはどこに行ったんだ?」
「あのね、すぐに追いかけたんだけどあの子、足も速いでしょ。すぐに見失っちゃってね。しばらく探し回ったんだけどみつからなくて…家に戻ってるかなって帰ったらレティが元気になっててびっくり!」
ルルはレティシアと目を合わせてニッコリ笑った。
「ツキならそんなに心配することもないだろうけど…こんなこと初めてだな。」
カイは首を傾げていた。
「お腹が空いたら帰ってくるでしょう。」
ケリーはいつもの調子でそう言った。
ときどきふらっと出かけて行くこともあったからだ。
ケリーはレティシアにスープを飲ませてあげてとハンナにカップを渡した。
ハンナは一瞬戸惑いを見せたが嬉しそうにレティシアの口にふぅふぅと冷ましたスープを運んだ。
「ハンナありがとう。とってもおいしいです。」
「作ったのはケリーさんですよ。」
お腹が満たされたレティシアはあくびをして眠そうにしていた。
「レティシア様、身体は疲れているようです。少し眠ってくださいな。」
ハンナは優しくレティシアに布団をかけた。
レティシアは「寝たくない」と言いながらすぐに寝てしまった。
みんなはレティシアを一人にして居間に移動した。
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「さてさて、ハンナには聞きたいことがたくさんあるのだけれど、何から聞けばいいかしら。」
ルルは早口にそう言った。
「順番にお話しますね。」
ハンナはボソボソと話し始めた。
3人はそれを黙って聞くことにした。
城が攻撃されたとき、ルルとレティシアを逃した後、追手に攻撃されたこと。
魔法で反撃して逃げたこと。
行き倒れになっていたところを商人に拾われたこと。
そのままタルの町に連れて行ってもらったこと。
そして自分でお金を貯めて薬局を開いたこと。
そこまで話すとハンナはため息をついた。
「みなさんがタルの町に来たとき、私はみなさんをみかけたんです。すぐに駆け寄って抱きしめたかった。でもそれができなかったんです。」
ハンナは少し顔色が悪くなり、小さく震えていた。
「とても悪いものが…レティシア様の横にいました…。」
部屋の中はシーンと静まり返った。
「あの黒髪の少女は魔族です。それもかなり上級の魔族ですね。」
ハンナは震えていた。ルルはそんなハンナの手を握った。
「魔族って?」
ルルは怯えるハンナの姿を見て恐怖を覚えた。
「魔族とは魔物のずっと上位の存在で、見た目は人と変わりないのですが凄まじい魔力を持っていて…。人類を滅ぼしかねないとしてその昔、殲滅された一族です。」
「魔族…絶滅したと聞いていたが…。まさかツキが…。しかしあの魔力とあの魔法…。」
カイは思い当たるところが多すぎるな、と言った。
「おそらく…魔族はどこかでひっそりと命を繋ぎ、反逆の機会を狙っていたのかもしれません。」
ハンナは本当に怯えていた。
「ツキはどうしてうちに来たんだろう?」
ルルは不思議そうに思い返しているようだった。
「うちは隠れて過ごすには最高の条件が揃っていたのかもしれないな。」
カイは隠密として暮らしてきた家族だからだろうと言い、みんなはそれでなんとなく納得した。
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レティシアは眠りながら夢の中でツキのことを考えた。
レティシアはツキが転生者だと知っている。しかもツキは『あなたを助けるために生まれてきた』というようなことも言っていた。
《いったい何がどうなっているの》
レティシアの頭の中はパンク寸前だった。
あの黄緑色の瞳でニコッと笑うツキの姿が思い浮かぶ。
《ツキ…どこに行ったの?帰ってきて…》
レティシアは寝ながら涙を流していた。
レティシアは深い穴の中に落ちていくような感覚と共に深い眠りに落ちた。
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