第17話
カイは一人で大きな町タルに来ていた。
一人で馬を走らせれば3時間くらいで到着できる。
途中で馬を休ませるために少し休憩したので、今は午後2時くらいだろうか。
カイはまっすぐ鍛冶屋に向かった。まずは採掘した鉄を売ろうと思う。
鍛冶屋の店主はカイのことを覚えていた。
「またこんなにたくさん!大きな鉱脈をみつけたんだなぁ。」
店主はとても嬉しそうだった。
この町は平和だったが、東の諸国では戦争が続いているのだと教えてくれた。
武器や防具は作れば作るだけ売れるのだと言う。
「こんな石をみつけたんですが、売れますかね?」
カイはエメラルドを見せた。
「ほぉ、これは珍しいな。うちでは取り扱っていないが貴族街の方に宝石商がいる。そっちを尋ねてみな。」
カイは鉄の代金をたくさんもらい、店主にお礼を言って貴族街の方へ向かった。
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貴族街には門がついていた。門番もいてなかなか仰々しい。
その手前に高級そうな物を扱う店が数軒並んでいた。
装飾品を扱う店をみつけ、中に入ってみた。
若い女の店員はカイを見て明らかに嫌な顔をした。
カイは申し訳なさそうに「すみません、買い取りをお願いしたくて」と言った。
店員はまだ嫌な顔をしていたが奥から男を呼んでくれた。
「店主のモーリです。何をお持ちになったんでしょう?」
モーリは物腰の柔らかい品のある老人だった。
カイがカバンからエメラルドを見ると少し驚き、宝石を扱うときの上等な布張りのトレーを持ってきた。
カイはその上にエメラルドをポンとおいた。
モーリは上質そうな革の手袋をしてエメラルドを手に取った。
そして何かの魔導具を取り出してエメラルドを見た。
「これは!とても珍しい石ですな!どこで?!いや、それを聞くのはタブーでしたな。」
モーリは興奮した様子でエメラルドを眺めた。
「連れが言うにはエメラルドと言う石らしいのですが、合っていますか?」
「エメラルド?そんな名前がついているのですね。恥ずかしい話ですが、私はこのように透き通った緑色の石は見たことがありません。」
お店の中に並んでいるのは金や銀のアクセサリーで赤や青の石がついていた。
その中でも透き通る色のついた石は少なく、多く並ぶのはターコイズと呼ばれる青い石や薄いピンク色の乳白色に近いものだった。
その中にはアメジストも並んでいた。
「買い取りは難しいですかね?」
カイは苦笑いをしてエメラルドをしまおうとした。
「いえ!今は値段をつけられません。売ったことがないのでね。1日…いや、明日の朝まで…私に預けてもらえませんか?お得意様のところへ持っていってみたいと思います。」
カイは「ぜひ」と言って店を出た。
ケリーには泊まるかもしれないと言っておいたので無理せず1泊することにした。
メルラさんの宿に向かい、馬のオルリを預けた。
この宿は裏で馬や馬車を預かり、餌や水やりをしてくれる。
道に繋いだままにしておけないのでとても助かるサービスだった。
カイは厩舎で手伝っていたメルラの息子ロンに銀貨を1枚あげた。
「ありがとうございます!!」
ロンは大喜びで母親に報告に行った。
この世界で銀貨1枚だとパンなら10個くらい買える。
銀貨の下に鉄と何かを混ぜたような合金でできた鋼貨という硬貨がある。
鋼貨100枚で銀貨1枚の価値がある。そして銀貨100枚で小金貨1枚、小金貨10枚で大金貨という感じで紙幣は使われていない。
カイのお金の小袋の中には鉄を売った代金として大金貨3枚と小金貨が10数枚入っている。
盗まれるのを恐れて銀貨用の小袋も持っている。
普段の買い物は銀貨で事足りる。
「お客様いらっしゃいませ!今日はお一人なんですね。」
カイは宿屋の隣の店で夕食をとることにした。
ライはちゃんとカイのことを覚えていた。店員としてとても優秀なようだ。
カイは珍しくお酒も頼み、久しぶりの一人を楽しんだ。
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翌朝、カイは馬を預けたまま食事を済ませると昨日の宝石商の店に向かった。
朝の大通りは開店準備でバタバタしている感じがした。
カイは宝石商と時間を決めていなかった。つくとお店はまだ開いてなかった。
ドアのカーテンの隙間から覗くとモーリと目が合った。モーリはすぐにドアを開けてカイを中に招いた。
「カイ様、大変申し訳ありません!昨日お預かりしたあのエメラルドですが…お見せした貴族様が大変気に入ってしまいまして…返してくれなかったのでございます。」
モーリはとても申し訳なさそうに頭をペコペコ下げた。
「売れてしまったと言うことですかね?」
カイは怒りもせず、驚いた感じでそう聞いた。
「はい、そのかわり大金を渡されました。」
モーリはそう言って小金貨がたくさん入った小袋を出した。
「こんなに?!」
小金貨が20枚と銀貨が20枚くらい入っていた。
カイは驚いて小金貨を3枚モーリに渡した。
「手数料はこれくらいで足りますか?」
モーリは驚いて「いただけません!」と言ったがカイは強引に渡した。
「また持ってきたら小金貨15枚くらいで買い取ってもらえそうですかね?」
カイが申し訳なさそうに聞くと「他にもあるというのですか?!」とモーリは食いつくように叫んだ。
昨日持ってきたエメラルドは小ぶりのもので家にはまだ大きくてきれいなものがある。
「今回は試しに1つしか持ってきませんでしたが家にはまだあるんですよ。」
「それはぜひとも!うちにお持ちください!」
モーリは貴族は自慢が好きで負けず嫌いだからもっと高値で売れるようになるんじゃないかと言った。
多分、自慢された他の貴族から問い合わせが入るのではないかという事だった。
カイは「また来ます」と言って店を出た。
あまりにも高値がついたので心臓がバクバクしている。
「しまった!」
カイはエメラルドのことで頭が一杯でレティシアのことをすっかり忘れていた。
このお金で薬を買わなくてはいけない。
カイは急いで薬屋を探した。
薬屋はすぐ近くにあった。
きっと客に貴族が多いのだろう。
中に入ると「いらっしゃいませ」と、女性の声が聞こえた。女性はマスクをしていて顔はよくわからないがケリーと同じくらいの年齢に見える。
女性はカイを見て一瞬ピクッとしたように見えた。
カイはもっと上等な服を着て来ればよかったと後悔した。
「どのようなものをお探しですか?」
カイはレティシアの年齢や症状をわかっている限り話した。
普通の熱さましでは効果がなかったことも伝えた。
女性は明らかに顔色が悪くなった。
「それはもしかしたら病気ではないかもしれません。何か普段行かない場所で特別なことをしたとか、特別な何かと対峙したとかありませんか?」
そう聞かれたカイは一瞬悩み、「洞窟で魔物に会ってしまって」とだけ言った。
女性は「それかもしれませんね」と言った。
「薬では治らないと言うことですか?お金ならあるんです。何かありませんか?」
女性は悩み、「私が直接診てもよいですか?」と言った。
「えぇ?うちは…その…かなり遠くて…」
カイはできればトンネルにも家にも他の人に来てほしくなかった。
「遠いのは大丈夫です。」
「いや、でも、申し訳ないし…その、薬さえあれば、と思っていたのですが。」
「カイさん、私、ルルさんと城で働いていたハンナです。」
マスクを外した女性にカイは見覚えがあった。
「ハンナ…!生きてたんですね!!」
ルルとレティシアが何年も探していた女性だった。
「熱が出てるのはレティシア様ですね?」
カイは小さく頷いた。
「レティシア様は"よくない者"と一緒におられました。きっとその影響だと思います。すぐに向かいましょう。」
ハンナは馬を所有していた。
カイは不安な気持ちのままハンナを連れて家に戻ることにした。
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