第13話
《馬車ってこうやって買うんだ》
レティシアは前世の記憶にはない買い方に驚いていた。
この世界には中古車販売のような店はない。
馬はなんとなく牧場のようなところで買えるのはわかるが、馬車を売っている店があるのは想像しにくい。
カイはまず冒険者ギルドと呼ばれる建物を訪れた。
そこには魔物の討伐依頼から猫の捜索依頼など、様々な依頼が掲示されていた。
ルルによると冒険者という職業の人がいて、剣や魔法が使える人たちが誰かの依頼をこなしてお金を稼ぐというのだ。
レティシアは前世の記憶にあるゲームの世界を思い出した。クエストクリアで報酬をもらうというアレである。
実際の依頼はゲームのそれとは違い、いろいろあった。
中には浮気の調査や行方不明者の捜索など探偵や刑事の扱うような案件もあった。
その中に【売ります】【買います】というコーナーがある。
カイはそこに馬車や馬が出ていないかを見に来たのである。
冒険者ギルドから出てきたカイはニコニコしていた。
「すごい偶然だよ。馬車を売りたいという人に出会ったんだ。」
カイの後ろにはレティシアの記憶の中にある執事のような格好をした男の人が立っていた。
彼は貴族の屋敷に勤めている使用人だった。
主人の命令で馬車を売りたいという広告を出すところだったと言う。
貴族の持ち物で少し値段は高かったがその場で決めたということだった。
使用人の男は「馬車を持ってきます」と言って貴族街の方に歩いて行った。
取りに行くと言ったが断られたという。
庶民はあちらに近づかないという暗黙のルールがあるとケリーがレティシアとツキにこっそり教えてくれた。
カイは小袋にお金を数えながら入れていた。
相当な金額のようだったが、カイのカバンからは次から次へと金貨が出てきた。
こんなところを悪いやつに見られたら大変である。
4人はお金を数えるカイをなんとなく囲んで隠した。
ほどなくして馬車の音が聞こえた。
そんなに大きくはないが5人で乗るにはちょうどよさそうな馬車と馬も1頭ついていた。
「お待たせしました。」
使用人の男は馬車から降りてきてカイからお金を受け取った。
使用人の男は小袋の中を確認し、「この子はオルリと言います。とても優秀で優しい子です。よろしくお願いします。」と言って頭を下げた。
カイも「大事にします」と言って頭を下げた。
「さぁ、乗ってみようか!」
使用人を見送ってからカイは御者の席についた。
ルルはその隣に嬉しそうに乗り、あとの3人は後ろの席についた。
貴族の馬車だっただけあり、古いが中はそこそこ豪華な作りだった。
シートも上質な布が張られており、座り心地も良かった。
ガラスでできた窓もついていて、レティシアは前世で読んだ童話の世界を思い出した。
《魔法が切れてカボチャになったらどうしよう》
この町に来るときに乗った馬車とは乗り心地がかなり違った。
カイは町の中を一周して店が立ち並ぶ大きな通りで馬車を止めた。
カイとケリーは必要なものを買いに行った。
ルルは手綱を任され、レティシアとツキも御者の席に座ってみた。
「この馬車、トンネルを通れないわ。」
レティシアが思い出したようにそう言った。
「拡張工事が必要ね。」
ルルもハッとしてそう言った。ツキはニヤリと笑って「私の出番だね」と言った。
3人はなんだかおかしくなってクスクスと笑った。
「あれ?お客さん!馬車で来てたんだね!」
知っている声がして振り向くとそこには酒場のライがいた。
「これは、さっき譲ってもらったんだよね。これで家に帰るよ。」
ルルはなんとなく濁してそう言った。
「もう帰っちゃうんだね。寂しくなるよ。いつでも遊びに来てね!」
ライはそう言うと手をブンブン振って「またね!」と言っていなくなった。
レティシアはホストにハマるマダムの気持ちが少しわかったような気がした。
そうこうしているうちにカイとケリーが戻ってきた。
手にはサンドイッチのようなものを持っている。他の荷物はカバンに入れてしまったのだろう。
「さぁ、帰ろうか。」
レティシアたちはカイに御者を任せ、後ろに乗り込んだ。
町を出て、しばらくするとケリーは次々と戦利品を見せてくれた。
新しい鍋やフライパンに調味料入れ、塩や砂糖に小麦と生活に必要なものをたくさん買っていた。
さすがに家畜は買えなかったようで、あっちの町に戻ったら探してみようということになった。
道は相変わらずガタガタだったが、レティシアは酔うことはなかった。
《さすが貴族》
程よい揺れで帰りの馬車の中でレティシアは寝てしまった。
寝息を立てるレティシアを見たツキもすぐに眠ってしまった。
ケリーはそんな二人の頭を撫でて「二人のおかげよ」と言って微笑んだ。ルルも無言で頷いていた。
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途中で馬を休ませるために休憩を挟んだが、行きよりも早く最初の町に戻ってきた気がした。
馬と馬車の性能の違いだろうとカイは嬉しそうに言った。
町は通らずにまっすぐトンネルに向かった。
馬車は出口のある崖の下に一度停めた。
ツキは馬車が上がれるように崖に沿うようになだらかなスロープを作った。
立派なものではなく、ある程度自然に見えるように岩で隠すように作ってくれた。
それが終わるとトンネルに入り、地面を平らにして全体的に広くした。
その時間、わずか10分ほどだった。
《チートキャラすぎるでしょ》
レティシアは驚きと半分呆れている自分に気がついた。
馬車は難なくトンネルを通ることができた。
出口の辺りも下から見てもわからないように岩を積んで隠すようにしてくれた。
よっぽと注意深く山肌を見ない限りみつからないだろうとカイは喜んだ。
《このトンネルが他の人間にみつかりませんように》
レティシアは試しに祈ってみた。
トンネルはふわっと光り、何かに覆われるように見えた。
「レティ?結界を張ったの?」
ルルは異変に気がついたようで、驚いてレティシアを見た。
「わからないけど、みつかりませんようにって祈ってみた。」
カイも驚いて「あの家にかかっていた結界にそっくりだよ」と言った。
どうやらうまくいったようだった。
家についた頃には外は真っ暗だった。
カイは馬車から馬を離し、家にあった柵のついた小屋へ連れて行った。
馬を入れるには少し狭いように見えたが綱で繋いでおくよりはいいだろうと柵の中に入れた。
「明日はオルリの家作りからだな!」
カイは優しく馬をなでて飼葉と水を与えた。
家に帰ったという安心感で食事を簡単に済ませた一同はすぐにベットに入った。
レティシアは起きたときに馬車がカボチャになってないようにと祈ってから眠りについた。
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翌朝、オルリの小屋のところに見たことのあるヤギがいた。
あの燃やされた家で飼っていたヤギだった。
生きていてくれたことにみんなは喜んだ。
赤ちゃんだったレティシアにミルクをくれたのもこのヤギだ。
レティシアはヤギのことをもう一人のお母さんと密かに呼んでいた。そして誰よりも再会を喜んだ。
ヤギも戻ったので、本格的に馬小屋が必要になった。
カイはツキに頼んで木材を用意してもらった。
ツキは手頃な木を風魔法で伐採してカイの前に積み上げた。
カイはそれを加工して組み立てていく。
ケリーとルルはその周りを柵で囲っていった。
レティシアだけできることがなかったので結界を試すことにした。
《この土地が他の人間にみつからず、いつまでも豊かな自然と共にありますように》
辺り一面がキラキラに包まれた。
作業をしていたみんなも手を止めて空を見た。
それが結界だとわかりみんなはレティシアに手を振った。
いつもより畑の野菜が元気に見えた。
レティシアは満足してみんなの作業を眺めた─。
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