第12話
馬車での移動は思いの外大変だった。
道はボコボコしていてずっとガタガタと揺れるし、座席もなく、みんなは荷物と一緒に荷台に乗せられていた。
格安運賃で運んでくれるのを考えたら妥当なのかもしれないが、レティシアは車酔いのような状態が続いた。
本来ならば回復魔法をかけて治すところだが、他の乗客にキラキラさせるところを見られるわけにもいかない。
「吐くなら後ろで外に向かって吐きな!」
一緒に乗っていたご婦人が青い顔のレティシアに向かって笑いながら話しかけてきた。
「そうします…。」
レティシアはルルに支えられながらヨロヨロと後ろまで行った。
馬車の幌を少し捲り、レティシアはスポっと外に顔を出した。
外の空気は少し肌寒く、気持ちよかった。
レティシアはゆっくりと深呼吸をした。ルルはずっとレティシアの背中をさすってくれていた。
「ありがとう、少し気分が良くなったよ。」
レティシアは吐くこともなく、そのまま馬車の後方にいることにした。
「ツキはよく寝ていられるよね。」
カイとケリーの間にすっぽりと入り、ケリーの膝枕でツキはすやすやと眠っていた。
馬車に慣れないレティシアにはこの時間が永遠に終わらないのではないかと思われた。
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休憩することもなく走り続けた馬車は夕方には目的の町に到着した。
ツキは「よく寝た」と伸びをしていた。
レティシアだけはまだ青白い顔で今にも倒れそうだった。
「お嬢ちゃん大丈夫かい?」
一緒に乗っていたご婦人が薬草のようなものをくれた。
「この葉っぱを噛んでぺって吐き出しな。少しスッキリするよ。」
「ご親切にありがとうございます。」
ケリーはそのご婦人に丁寧に頭を下げた。
「いいんだよ。子連れでの長旅は大変だろう。うちは宿屋をやっててね、もし泊まるところが必要になったらいつでもおいでね。この先にあるよ。」
そう言ってご婦人は笑いながら去って行った。
タルはとても大きな町だった。
まわりをぐるっと柵で囲まれていた。町の奥の方に大きな屋敷が見える。きっと領主の住まいだろう。ここは言わば城下町なのだ。
「さて、先程のご婦人の宿に泊まらせてもらおうか?鍛冶屋はもう閉店のようだし。」
カイは何軒も並ぶ店の中から鍛冶屋を指差した。
「お金には余裕があるし、鉄が売れたら大金持ちになれるもんね。」
「ルル!」
ケリーはルルにシーっと口元に人差し指を立てた。
「ごめん」とルルはぺろっと舌を出した。
誰がどこで何を聞いているかわからない。
下手なことを言って泥棒に狙われたら大変だ。
5人はすぐに酒場のような店の隣にある宿屋をみつけた。
中に入り、受付に行くと小さな男の子が店番をしていた。
「母さん!お客さんが来たよ!」
さっきのご婦人が階段を降りてきた。
「お部屋、ご用意してましたよ。」
そう言ってニッコリと笑った。
カイとケリー、ルルとレティシアとツキで部屋を分かれた。
二人部屋しかないようだったが二人で1つのベッドでいいだろうと言ってくれた。
こちらの懐事情も察してくれたようだ。
「私はメルラ、こっちのは息子のロンです。何かありましたらいつでも言ってくださいね。」
ロンは恥ずかしそうにペコリとおじぎをして、すぐにメルラの後ろに隠れた。
歳はレティシアより1つか2つ上のように見える。
「メルラさん、この辺で食事ができるところはありますか?」
「それなら隣の店に行くといいよ。酒も出すが料理も評判だよ。」
そうしてレティシアはこの世界で初めての外食をすることになった。
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酒場だと思っていた店の中はレティシアの前世の記憶でいう居酒屋のような感じがした。
カップルや家族連れもいて、いろんな人たちが食事に来るようなお店のようだった。
「こちらへどうぞ!」
店に入るとすぐに若い男の子が席に案内してくれた。
「あれ?さっき会ったような…。」
レティシアはその子を見て思わず声に出してしまった。
「あぁ、宿屋に行ってたんですか?それ、弟のロンのことかな?」
「本当だ!そっくりだね!」
ルルも男の子を見て驚いていた。
「俺と親父がこっちの店をやってるんですよ!俺はライです。どうぞよろしく!」
ロンに顔は似ていたが大きさが全然違っていた。背丈はルルくらいあり、年齢は10歳前後だろうと思われる。
「オススメしてくるわけだよな。」
カイはメニューを見ながらクスッと笑った。メルラは商売上手なおかみさんのようである。
「さて、何を注文しようかな?」
カイがみんなに何を食べたいか聞いてきた。
レティシアは迷わずに「パン!」と答えた。それを聞いた近くの席の人たちがクスクスと笑っているのが聞こえた。
カイは肉料理と魚料理、そしてパンをたくさん注文してくれた。
仕上げにアップルパイまでつけてくれた。
「しあわせ…。」
満腹になったレティシアは目がショボショボしていた。
「あらあら、隣が宿でよかったわね。」
ルルが眠そうにしているレティシアを見て笑っていた。
ケリーが会計を済ませ、カイはほとんど眠っているレティシアを抱きかかえた。
「朝は6時から朝食も出してます!よかったらどうぞ!」
ライもなかなかの商売上手のようだった。
「ごちそうさま。またおじゃましますね。」
ケリーが笑顔で答えた。
ここの料理はどれもとても美味しかった。値段も手頃で流行っているのにも納得だった。
宿につくとメルラが受付にいた。
「あらあら、寝ちゃったのね。お風呂はこの奥にあるので自由に使ってくださいね。」
「ありがとうございます。」
カイはベッドにレティシアを寝かしつけた。
「今日のお風呂はレティだけおあずけだな。」
「慣れない移動と初めての町ではしゃぎすぎたのね。」
ルルは愛おしそうにレティシアの頭を撫でた。
隣で見ていたツキが羨ましそうにそれを見ていた。ルルはそれに気がつき、「一緒にお風呂に行こう!」とツキの頭を撫でた。
ツキは嬉しそうにするのかと思ったけどちょっと嫌な顔をした。
「ツキは本当にお風呂が嫌いねぇ。でも女の子はきれいにしないとだめよ!」
「はーい。」
ツキは不服そうだったがルルと手を繋いでお風呂に向かった。
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翌朝、メルラさんにも隣での朝食をすすめられた。
「今日もお泊りになりますか?」
「帰る予定でいますが…。」
カイが言葉を濁すとメルラは「いつでもお待ちしてますね」と笑顔で見送ってくれた。後ろからロンがちょこんと顔を出して手を振っていた。
レティシアとツキも同じように手を振った。
隣の店に入るとまたライが席に案内してくれた。
「来てくれると思ってましたよ!もううちの料理の虜ですね!」
ライは朝から元気だった。なぜかこちらも元気になるような、とても不思議な子だった。
朝食はソーセージと目玉焼きにパンというシンプルなものだったがとても美味しかった。
5人は満足して店を出た。
ライは「お昼ご飯にもぜひ!」と言っていた。とても商売熱心だった。
ケリーがボソッと「彼には転職ね」と言って、笑っていた。確かにあんな風に言われるとまた行きたくなってしまう。
《これはホストにハマるマダムの思考かしら…》
レティシアは前世の記憶でホストにハマって借金地獄になる話を思い出して身震いした。
「鍛冶屋が開いてるな。みんなはあのベンチのところで待っててくれ。」
カイは一人で鍛冶屋に入って行った。
4人は昨日閉まっていた店をのぞきながら歩いた。
どのお店も立派な建物で、高級そうなものばかりが並んでいた。
よく見ると歩いている人たちも高級そうな格好をしていた。
「貴族がたくさん住んでいそうね。」
ルルは小声で大きなお屋敷の方を指差した。
お屋敷のまわりには高級そうな家が何軒も建ち並んでいた。
きっとそちら側が貴族街になっているんだろうとケリーが教えてくれた。
ベンチのまわりには小さな家がたくさん並んでいる。
井戸に水を汲みに来ている人もたくさんいた。こちら側は普通の人たちが暮らしているようだ。
レティシアたちが楽しくおしゃべりをしていると突然ツキが立ち上がってどこかを凝視するように睨んだ。
「誰かがこっちを見てた。」
ツキはキョロキョロしたが、その人物をみつけることはできなかった。
「気のせいじゃない?」
ルルもキョロキョロしていたが不審な人はみつからなかった。
ツキは真剣な顔で「変だなぁ」と納得のいかない顔をしていた。
「何をそんなに睨みつけているんだい?」
気がつくとカイがやって来ていた。
「どうだったの?」
ケリーが心配そうに聞くと、「馬と馬車を買おうと思う。それに鶏とヤギか牛も欲しいな。」とカイは満面の笑顔で言った。
鉄は思っていた以上に高値で売れたようだった。
みんな騒ぐことはしなかった。いつ誰がどこで何を聞いているかわからない。泥棒に聞かれたら大変だ。
それでもみんな笑顔になった。
「必要なものを探しに行こうか!」
レティシアとツキは無言で「おー!」のポーズを取った。
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