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王都の料理屋ですが、元相棒の騎士隊長に見つかりました~盗賊団の過去を隠した二人の再会ロマンス~  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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第五話 ヴィエンの過去01

 これは、とてもわくわくするような物語の滑り出しではなかった。

 四年前アラリクを襲った悲劇。

 けれど王国騎士団にとっては、華々しい勝利だったのかもしれない。


「あの日。ニケアを逃がした俺は、王国騎士団に捕まった」


 もう空になったエールを見て、ニケアがお代わりを用意しようと腰を上げる。

 そんな彼女の手首をおさえると、ヴィエンは小さく首を横に振った。


(逃げ場が、ない)


 ヴィエンは、誤魔化すことなく話すつもりだ。

 そう受け止めたニケアは、大人しく再び席に着いた。


「ボスも親方たちも、大人は皆捕まってた。ただ、俺の下にいた奴ら(ガキども)は逃がせてただろ」


 アラリクが摘発を受けた時、ヴィエンとニケアはすぐに動いた。

 まずは年端も行かない子どもたち。

 彼らを、あらかじめ味方にしていた教会に逃がす。


 それからもう少し上の子どもたちは、まとめて荷馬車で遠くに逃がした。

 荷馬車の中には、本当に街で購入していた品が乗っている。

 たとえ検問にひっかかったとしても、怪しまれることはないだろう。


(あの子たちは無事に逃げおおせたのかな)


 集団でいれば、どこかで生き延びることはできるだろう。

 アラリクではいつも、突然の摘発に対して、子どもたちを逃がす方策は取っていた。


「連れていかれた先には、少なくともあいつらはいなかった。それに」


 そこで、一瞬言葉が切れる。


「……俺を拷問して聞き出そうとしたのも、あいつらのことだったからな」


 苦々しいものを噛んでしまったかのような表情を浮かべ、ヴィエンは喉の奥から乾いた声を出した。


「でも、ヴィエンは吐かなかったんでしょ」


 ニケアの言葉に、ヴィエンは彼女を見る。


「だから、ヴィエンはあの子たちがどうしてるか知らないんでしょ?」

「ニケアは俺を疑わないんだな」

「疑ってたら、店には入れないわよ」


 ニケアの言葉に、ヴィエンは片眉をあげた。

 そんな彼に、ニケアは口の端を引き上げて笑う。


「私だってあそこの人間だったのよ。裏切り者は許さないわ」


 それがたとえ、自分を助けるために捕えられた者であっても。

 ヴィエンは目を細め、まるで猫のように笑った。


「安心した」

「なによそれ」

「命の恩人だからって、手心を加える女じゃない。そう改めて確認できたからさ」

「――馬鹿ね」


 ニケアは肩を軽く上げて笑う。


(逆よ。あんたは絶対に、裏切らないでしょ。だから私はヴィエンを信じていられる)


 六歳の頃、スラムで死にそうになっていた自分を拾ってから、盗賊団の一人として育ててくれたのもヴィエンだ。

 たった四歳の違い。

 けれど、子どもの四歳は大きい。


(この背中に、どれだけ助けられたのか)


 つい先ごろ、ケークウォーク用の隊服が新調され、それに切り替わったヴィエンの背を見る。

 あの頃はただの白いシャツを着ていた彼も、今は随分と立派な服を着るようになった。


「そんで、いつまで経っても吐かない俺を気に入ったらしい騎士団長が、俺を養子にすると言いだした」

「は?」


 これまでの話から一転して、とんでもない展開を見せる。

 ニケアは目を丸くし、まるで酸素を求める魚のように、口をパクパクと開閉してはヴィエンを見た。

 それにしてやったりといった顔を見せるヴィエンに、ニケアはわざわざこういう言い回しをしたことに気付く。


「全部端折って、話を終わらせようとしたわね」

「そうじゃないって。でもまぁ、拷問は長かったから、あんま思い出したくはないな」


 少しだけ遠くを見るような顔をしながら、ヴィエンは立ち上がり、上着を脱いだ。


「えっ、何脱いでんのよ」


 ニケアの声を無視し、ヴィエンはそのまま着ているシャツをまくり、背中を見せる。

 そこには、無数の鞭や火傷の痕が残っていた。


「……痛かったでしょ」


 彼の背に、そっと指を添える。

 ニケアの手は少しだけ冷たくて、それがヴィエンには心地よかった。


「でも、お前らが――ニケアが捕えられることを考えたら、俺が死ぬ方がマシだったから」


 シャツを戻し、再び座る。


「俺が折れねぇって気付いた騎士団長が、今度は剣を渡してきたんだ」

「は?」


 再び突拍子もない話が出て、ニケアは声を上げた。


「それ、同じ反応さっきもしてたぞ」

「仕方ないじゃない。ヴィエンの話が想定外すぎて」

「まぁ、俺にとってもそうだったよ」


 ヴィエンは自分の手を軽く握る。そうしてニケアを見た。

 赤い瞳の中に、ニケアが映りこむ。


「拷問でぼろぼろの体に、剣を渡してくるんだぜ? 自刃しろと言われたかと思ったぜ」

「それで、何をさせられたの」

「騎士団長と一騎打ち」

「どう考えても、騎士団長が有利じゃない」


 相手は傷一つ負っていない、年上で経験豊富な騎士団長だ。

 対してヴィエンは、どれだけ腕が良く戦いに強いと言っても、拷問をさんざん受けた後。


「でも、もしも騎士団長に膝をつかせることができたら、解放してくれると言われたからな」

「膝をつかせればよかったのね?」


 ヴィエンがそこに勝機を見たのは当然だった。

 騎士団というのは、馬上での戦いが主だ。それ以外の歩兵であっても、基本的には鎧をつけて剣で戦う。

 一方、ヴィエンの――アラリクの戦い方は泥臭い。

 相手を抹殺するためには、どんな方法だってとる。


「ニケアの想像通りさ。さすがに万全じゃねぇけど、チャンスがないわけでもなかった」

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