第十八話 アラリク01
ケークウォークの詰め所は、王城の一角にある。
そこにカルケルと執事、そして護衛の三人が運ばれていった。
ニケアが囚われていた場所は、どうやら大店プロドスィア商会の敷地内にある倉庫だったらしい。
貴族相手の商売をしていることもあり、ケークウォークの隊員は裏門から入り込んだという。
「すっかり夜も更けちゃったわね」
事情聴取が必要とのことで、ニケアもヴィエンに抱きかかえられたまま馬に乗り、詰め所にいた。
(王都の中を、短時間とはいえヴィエンに抱きかかえられて馬に乗るだなんて。恥ずかしすぎる)
今を時めくケークウォークの隊長だ。
自分の顔を見られて、後々妙なやっかみを向けられたらたまらない。
店に嫌がらせをする人間がいないとも限らないのだ。
夜中なので人目がなくて良かった。
心の底から、そう思う。
「もっと食うか?」
「うん、お願い」
ニケアの目の前には、炙った肉を挟んだサンドイッチが置かれている。
体力消耗が激しいだろうと、ヴィエンが用意したものだ。
「あいつの取り調べは、トリエンと騎士団副団長、それにドルトと俺が担当する」
「それ、私も同席できない?」
「うーん。拷問するかもしれないぞ」
「別に平気だけど」
「それもそうか」
ヴィエンはうなずき、「トリエンに許可を取ってくる」と軽く手を挙げて席を外した。
「ニケアちゃん、これお代わり分ね」
山盛りのサンドイッチの皿をニケアの前に置くと、ドルトはじっとニケアを見る。
「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」
「いーや。相変わらずかわいいなって思って」
「もうドルトさんはほんと、女の子を褒めるのが上手」
「ヴィエンはへたくそ?」
そう言ってにまりと笑うドルトは、自分の言葉にニケアの顔が赤くなるのを見て嬉しくなった。
「ちゃんと、ヴィエンの気持ちが伝わったみたいでよかったよ」
「えっ、それドルトさんは知ってたってこと?!」
ニケアの問いに、ドルトは満面の笑みで答える。
「ニケアちゃん以外、みんな知ってた」
***
王国騎士団長トリエン・バーゼルの許可の下、ニケアもカルケルたちの取り調べに同席することになった。
(よく許可が出たものね)
冷静になると、そう思う。
おそらくはヴィエンが、義父であるトリエンを説得したのだろう。
一人ずつ取り調べるということで、ニケアはカルケルのときにだけ同席する。
カルケルは拘束されたまま、座らされていた。
豪奢な服は脱がされ、囚人が着る最低ランクの麻の服。
カルケルの左右に副団長とドルトが立っている。
(ヴィエンもかつては、あれを着させられたのね)
ニケアの心臓が鷲掴みされたように痛む。
自分を守るために、あえて捕えられたヴィエンの姿が、まるで今ここにいるかのように見えそうになった。
それに気付いたのか、ヴィエンはニケアの顔を覗き込んだ。
「俺は今ここにいるぞ」
「――うん」
どれだけ苦しかったか。
どれだけ辛かったか。
それは、彼の背中に、腕に、足に残る傷痕が教えてくれていた。
それでも、今ヴィエンはニケアの隣に座っているのだ。
(過去を見るのではなく、今を見よう)
ニケアは小さく息を吐く。
気付かないうちに、呼吸が浅くなっていたようだった。
「クソ! せっかくヴィエンを抹殺できる機会だったのに!」
カルケルは取り調べの場に現れたヴィエンに向かって、開口一番そう告げる。
口の端を歪めながら喚く男に、後ろに立つ副団長がカルケルの両肩に手を置き力を加えた。
「ぐっ」
「貴様はヴィエンを殺すためだけに、ニケア嬢を誘拐したのか?」
肩にかかる圧力に堪えながらもヴィエンを睨むカルケルにトリエンが問えば、男は笑う。
「当然だ。俺を殺しかけた男に復讐して、何が悪い。本当はアラリクを壊滅させたときに、ヴィエンも死ぬはずだったんだよ!」
「――アラリクだと?」
ドルトがその言葉を拾った。
――拾ってしまった。
ニケアは瞳を閉じる。
(あぁ……。ヴィエンが積み上げてきたものが)
知らず握りしめた拳に力が入り、爪が食い込んだ。
カルケルはドルトの言葉に気付く。
最後に反撃のチャンスと思ったのだろう。
「ああ、あんた知らないのか。ヴィエンとそこの女、ニケアは元アラリクさ。大盗賊団アラリクの現場指揮者と参謀だ」
ドルトの表情が引き締まる。
ヴィエンとニケアの顔をゆっくりと交互に見る彼に、カルケルはさらに言葉を綴った。
「その男はなぁ。アラリクを裏切った俺を粛清しようとしたんだ。ボスのお気に入りの俺をよ」
「うるせぇ!」
へらへらと言うカルケルに、ヴィエンはカルケルの座る椅子を蹴り飛ばした。
ガタンと大きな音を立て、カルケルが尻を床に付ける。
「お、本当のこと言われて慌ててんのか?」




