表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都の料理屋ですが、元相棒の騎士隊長に見つかりました~盗賊団の過去を隠した二人の再会ロマンス~  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/30

第十六話 プロドスィア商会02

 先ほどの執事と護衛が一人。

 それに豪勢な服を着こんだ中年の男がいる。

 執事が目を細めてニケアを見下ろしつつ、彼女の前に簡易な椅子を用意すると、中年の男はそこに座った。


 白髪の多い髪と、顔のしわは、男の実際の年齢よりも老けて見せているように感じる。

 シルクのシャツは、太ってはいないが肉のついた男の体型を、妙に強調していた。その上にベストとジュストコールを着こんだ男は、その椅子にどっかりと座ると、笑みを浮かべてニケアを見た。


(誰――? なんか見覚えが)


「目が覚めたか。お前が作っていた睡眠薬だから、よく効いただろう?」


 その言葉に、目を見開く。

 同時に、ニケアは目の前の男を思い出した。


 アラリクの厨房で。

 薬調合の部屋で。

 そしてボスの横に、この男が立っていたのを。


「――カルケル。あんた生きてたのね」

「そりゃこっちのセリフさ。どうだ? 自分が考えた調合で、嵌められるのは」

「なにが目的よ」


 カルケル。

 アラリク時代に、ボスの下についていた男だ。

 ボスにかわいがられていたことを利用し、ボスが一番大事にしている宝飾品を盗みだそうとして失敗した男。

 ヴィエンが制裁を加えることになったことだけは知っている。

 そこまで思い出し、ニケアは息をのんだ。


「まさか、ヴィエン?」

「そのとおりさ。俺はヴィエンを恨んでいてね」

「あんたが粛清されたのは、あんたのせいでしょ」

「俺のせい? そうじゃない。あのときの、俺の腕のせいさ」


 そうしてカルケルはニケアの頬へと手を伸ばす。

 彼女の頬の輪郭をゆっくりと撫で、にまりと笑った。


「お前は、あいつをおびき出すためのエサだ」


 カルケルは立ち上がると、ニケアの髪の毛をぐいと引っ張り顔を上に向けさせる。

 ぎり、と睨みつけるニケアを見て、カルケルは楽しそうに笑う。


「いいね。お前も結局アラリクでしかない。そういう顔をしてる」


 ぱ、と髪を離すと勢いで首が一気に下がった。

 カルケルは再び椅子に座ると、護衛を呼びつける。

 二メートルはあるのではないかと思えるような大きな男が、カルケルのすぐ後ろに立った。


「ヴィエンの前で、こいつにお前を汚させようか」


 その下品な考えに、ニケアは眉をしかめた。それがカルケルを余計に楽しませるとは思いもしない。


「お前の首に手を掛けながら、するのもいいな。ヴィエンは手も足も出ずに、大切な女が目の前で汚されるのを見せられるんだ。あいつは発狂するかもなぁ」


 自分の計画をうっとりと話すカルケルに気付かれないよう、ニケアはワンピースの下に着ている長袖のシュミーズの袖口に、中指を必死に伸ばして触れた。

 袖口をつつつと指先で辿れば、一か所だけ引っ掛かる場所がある。そこから、細い金属を引き出した。

 そうして、柱の後ろに回された自分の手首の縄に、細い金属を差し込む。


(少し、時間はかかりそうだけど)


 その金属を上下に動かし、ゆっくりと縄を削っていく。

 カルケルが指示して縛ったのであれば、確かにいつものような縄抜けができなくても当然だった。


(こいつは、アラリクのやり方をよく知ってる)


 縄を切ろうとしていることがばれないよう、カルケルに話しかけて、気を引かなければなるまい。


「アラリクの粛清で、生き延びたやつはいないはずよ」

「俺以外はな。ほぼ死んだような状態で、俺は目の前の谷に自分から落ちたのさ。一千万分の一でもいいから、生き延びてやろうと思ってな」


 カルケルは腰に下げている剣を、鞘の上から撫でた。


「瀕死の状態で谷に落ちた俺が、泥水を啜って生き延び、ここまで大商会を起こしたんだ。あとはヴィエンを苦しめて苦しめて殺せば、それで満足さ」

「あんたの商会は大成功してんじゃない。ここでヴィエンに手を出したら、それも全部おじゃんでしょ」


 ニケアの言葉に、カルケルは鼻で笑う。


「俺は貴族になったんだ。平民どもを殺したくらい、大した問題ではない」

「貴族になった? あんたが?」

「ああそうさ。俺が落ちた谷の先は、エイレーネだった。隣国で傷を治し、這いつくばって生き残って金をため、没落貴族の女と結婚したのさ」


 カルケルは肉のついた指にはまるシグネチャーリングを、ニケアに見せつけた。

 そこにはウェスミン男爵家の家紋が彫られている。


「俺は貴族になったんだよ。もうお前らのような、下賤な人間とは違う」

「奥さんは、あんたの過去を知ってんの?」

「そんなわけあるか。商会長として会って、金で爵位を手に入れた。女は生憎、俺と結婚してから病気になって、隣国に家族ともども暮らしているさ」


 つまり妻に毒を盛ったか何かをしたということだろう。

 貴族位の簒奪と、直系貴族への毒。

 これが表沙汰になれば、カルケルは処刑されてもおかしくない。


(カルケルがこの話をするってことは、私を生きて戻すつもりはないのね)


 ニケアの脳内には、カルケルの話からいくつかの単語が浮かぶ。


(エイレーネ、執事服の男、貴族の世話、そしてヴィエンを害する……)


「ケークウォークの公開演武を邪魔しようとしたのも、あんた?」


 あの日捕えられたマルキアが自白した内容を思い出す。

 彼が口にしていた単語と、カルケルの話す内容は符丁が合いすぎる。


「そういえば、あの日笛を吹いて邪魔してくれたのは、ニケアだったな」


 カルケルの瞳に野卑な光が灯った。

 すらりと剣を抜くと、その切っ先をニケアの目の前に向ける。


「あいつが来る前に、ちょっとくらい痛めつけておいてもいいか」


(まだ縄は切れてない。足は動くけど、今下手に使えば、下手したら足を斬られる)


 せわしなく動く脳内とは裏腹に、ニケアは真っ直ぐにカルケルの顔を見据えた。


「――はっ。さすがアラリクの参謀の一人だな。もう少し怯えればかわいいものを」


 カルケルがつまらなさそうに剣を鞘に入れ直した。

 そのとき。


「ニケア!」


 明り取りの窓が勢いよく割られる。

 室内にガラスの破片が落ち、それと同時に待ち望んでいた男の声が響いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ