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王都の料理屋ですが、元相棒の騎士隊長に見つかりました~盗賊団の過去を隠した二人の再会ロマンス~  作者: 穴澤 空@ドアマットヒロイン1巻発売中!


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第七話 デート

 ヴィエンの口から出た、デートという単語にニケアは目も口も大きく開けたままになる。


「ニケア、さすがにびっくりしすぎだろ。ちょっと傷つく」

「いやだって、デートって……あれよね? 男と女が二人で出かけるやつ」

「そう。だから、俺とニケアで買い物に行くなら、デートだろ」

「買い物?」

「そう、買い物」


 こくりとうなずくヴィエンに、ニケアの体からへなへなと力が抜けていく。


(なんだ。ただの買い物かぁ――って、なんで私、がっかりしてんのよ)


「それで、なんで買い物なの」

「おおっぴらにお礼できないだろ」


 なるほど。ようやく話が繋がった。

 ニケアはくしゃりと鼻にしわを寄せて笑う。


「マルキア捕縛の報酬として、お礼を受け取らないと隊長も困るでしょうし」


 立ち上がり、カップをまとめてシンクに運ぶ。

 ついでに小さな紙袋を取り出すと、残りのクッキーをざらりと入れた。


「はい、お土産。昨日の夜作ったやつだから、早めに食べちゃってね」


 ぽんとヴィエンの手にそれを置けば、彼の表情が一気に浮かれていくのがわかる。


「なに。そんなに嬉しいの?」

「これは今夜、俺一人で食う」

「はいはい。それでいいわよ」


 店の鍵をかけると、大通りへ出た。


「何を買ってくれるの? 小麦粉? バター? それとも」

「待て。なんで食材を買うことになってんだ」

「え、他に何があんのよ」


 ニケアの店ピステヴォの前から少し先の大通りを境に、その向こう側は王都の中心となる。

 大きな商店や少々気取った店、それに貴族御用達の店なども並ぶ。


「普段この辺にはあんまり来ないから、ちょっと楽しいわね」


 平民の多くが日常の買い物をするのは、下町地区にある商店がほとんどだ。

 今二人がいる王都中心地の店に立ち寄るのは、少しおしゃれなものが欲しいときや、特別なときくらいだった。


「ここの店なんだけど」


 そう言ってヴィエンが連れてきたのは、少しこじゃれた感じの服飾店だ。

 店構えからしても、裕福な平民が訪れるような雰囲気で、ニケアが普段着るものが売っているとは思えない。


「ちょっとヴィエン。私」

「お礼って言ったけどさ。俺が見たいんだ、普段と違う服を着たニケアを」


 ヴィエンはそう言って、片眼を閉じてお願い、と手を合わせる。

 それが妙に色っぽく見えてしまい、どう対処して良いのかわからなくなった。

 反応が遅れた、その隙に。

 ニケアの腕を引き寄せて、ヴィエンはさっさと店の中に入ってしまう。


(ヴィエンのあんな顔、見たことないから……。だからちょっと、その、ぼやっとしちゃっただけなのに)


 それでも、店内に入ると上下左右に広がる色とりどりの布や、きらきらと輝くネックレスやブローチに、ニケアの目はすぐに釘付けになった。


「こういうお宝も、悪くねぇだろ?」


 ニケアの耳元でそう囁くヴィエンに、力なく笑い返す。


「その通りって思っちゃったから――ちょっと悔しいわ」


(さっきの言葉も、私にこれを見せたいと思ったからなのね。びっくりした)


 飾られている宝飾品の半分は良くできたイミテーション。

 布はシルクとリネン、コットンにウールと様々だが、生地というよりも、デザインや刺繍の端正さで勝負しているように思えた。


(イミテーションを、そうとは書かずに売るのは良くないけど)


 それでも価格としては、イミテーションなりの金額なので、問題ないのだろうか。

 ヴィエンも同じことを思ったのか、口元に手をやり少しだけ考えているようだった。


「摘発でもすんの?」

「まさか。これは俺の仕事じゃないな」


 法外な値段を取っているなら別だけど、と続けるヴィエンに、ニケアもうなずく。


「なぁ、これはどうだ?」


 店内に飾られている、いわゆる吊るしの既製品のワンピースを指す。

 ヴィエンが選んだのは、襟が小さくシンプルなワンピースだった。ウエストには共布のリボンが巻かれている。


「こっちの方が好きかも」


 ニケアが手にしたのは、同じデザインで襟元がVネックになっているもの。


「なるほど。そしたらこれは?」


 そういって、少し奥からヴィエンが持ってきたワンピースは、あまりにもニケアの好みに合っていた。

 深緑色のワンピースで、襟のVの部分から下にボタンがついている。ボタンの部分にタックが寄せられているのが、シンプルながらも、とてもかわいいデザインだった。


「いいじゃない。それにするわ」

「お客様、そちらでしたらぜひご試着を」


 袖の長さなどの調整をしてくれるらしい。

 せっかくなので、と試着してみると確かに裾と袖が少し長かった。


「調整してからのお渡しですが、よろしいでしょうか」

「だったら、俺が取りに来る」


 そう言ってヴィエンは会計をするために、店の奥へと向かう。

 待っている間、店内の宝飾品でも見ていようかと、ニケアはショーケースを覗き込んだ。


 ヴィエンの瞳のようでいて、それよりも薄い赤い色の石を使った、ブローチが目に留まる。

 値段もそれほど高くない。


「なんだ。欲しいのか?」


 会計を終えたヴィエンが、ニケアの目線を追う。


「ううん。別に」

「まぁそうだよな」


 店を出た二人は、顔を見合わせる。


「あのイミテーションは良くできてたな」

「ほんと。ヴィエンの瞳の色っぽいと思ってみてたけど、イミテーションじゃね」


 ニケアの言葉に、ヴィエンの笑みがぴたりと止まった。


「……え、なに? 私変なこと言った?」


 ヴィエンの顔は少しずつほころんでいく。

 わずかに顔が赤い。


「ニケア、赤い石見て俺の目みたいだって思ったんだ」

「そうだけど……。あ! そうじゃなくて! 変な意味じゃなくて!」

「変な意味ってなん――危ない!」


 ヴィエンの声と同じタイミングで馬の嘶きが響く。

 振り向くと、馬車が制御できなくなっているのか、勢いよくこちらに向かってきていた。


「ニケア、端に寄ってろ!」


 それだけを言い置くとニケアにもらったクッキーの袋を預け、ヴィエンは駆けだす。

 先ほどまで二人がいた辺りに馬車が近寄ってきたタイミングで、ヴィエンは近くの店の壁に足をかけると跳ね上がった。


 そのまま馬車を引く馬の背に飛び乗り、いなす。

 馬が大きく身を跳ねさせるが、ヴィエンはしっかりと両足を馬に挟み込み、乗りこなしていく。


「御者! そいつをよこせ」

「はいっ!」


 馬を制御しきれなかった御者から手綱の端を受け取る。


「うおっ、すげぇ。馬車の暴走を止めてんのかよ!」

「あれケークウォークの隊長だろ?!」


 周囲の人間の口からそんな声が聞こえてきた。

 だが、そうした野次馬の声が余計に馬を興奮させる。


(黙らせたいけど、さすがにそんなことできないし)


 ニケアは腕の中のクッキーの袋を抱きしめながら、ヴィエンの動きを逐一見守った。


「よーし、落ち着け、落ち着け」


 ヴィエンの馬への声が、聞こえてくる。

 タテガミとヴィエンの後ろ髪が同じように跳ね、そして徐々に落ち着いていく。

 ヴィエンは大通りの先にある公園へ馬車を向かわせ、荒い息を吐く馬の勢いを落とさせていった。

 過ぎ去っていく馬車を見送り、ニケアは安堵の息を吐く。


(絶対平気だってわかってても、心臓には良くないわ)


 このままヴィエンは、ケークウォークの隊長として馬車の対応をすることになるだろう。


(私も店に戻って、開店準備しなきゃ)


 ワンピースはお直しが終わればヴィエンが引き取ってくれるという。

 巡回のついでにでも、立ち寄るのだろう。


(ちゃんとしたお礼、言いそびれちゃった)


 正式な報酬としては出せないと言っていた。

 もしかしたら、ヴィエンの私費なのかもしれない。


(――ま、いっか)


 今度、ヴィエンのためだけにクッキーを焼いてあげよう。

 腕の中にある紙袋をちらりと見て、ニケアは店への道を歩き出した。



   ***



「隊長に、政略結婚の話が出てる」

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