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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

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第42話「名前を呼ばれる場所」

数日後。



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施設の中に、


普段とは違う動きがあった。



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廊下の掲示板が更新される。



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面談結果の一部が、


順番に貼り出されていく。



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相沢の名前はまだない。



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それが逆に落ち着かなかった。



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午前作業。



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長期刑の男はいつも通りだった。



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だが今日は少しだけ、


視線が長く続いた。



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「まだだな」



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それだけ。



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相沢は頷く。



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何がまだなのか、


答えは分かっている。



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“決定”。



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午後。



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食堂。



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テレビでは地方ニュースが流れていた。



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誰かが戻ってきた。



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誰かが出ていく。



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そのたびに、


画面の中で人生が切り替わる。



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相沢は思う。



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自分の人生も、


今その境目にあるのだと。



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夕方。



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房へ戻る途中、


職員が立っていた。



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短く呼ばれる。



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「302」



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その声だけで、


心臓が一度だけ強く跳ねる。



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渡されたのは一枚の紙だった。



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仮釈放審査結果の通知。



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そこに書かれていたのは、


明確な言葉ではなかった。



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「継続審査」



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つまり、


まだ外には出ないということ。



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でも完全な否定でもない。



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“保留”。



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相沢は紙を見つめる。



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少しだけ、


身体の力が抜ける。



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安心なのか、


失望なのか分からない。



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ただ、


どちらにも振り切れない感覚だけが残る。



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長期刑の男がその夜、静かに言う。



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「中途半端が一番しんどいんだよ」



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相沢は何も言えない。



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男は続ける。



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「終わりなら終わり」



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「始まりなら始まり」



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「でも“途中”はずっと揺れる」



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その言葉が胸に残る。



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夜。



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消灯。



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暗闇。



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相沢は天井を見つめる。



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外に出ることは、


まだ決まらない。



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だが、


“出るかもしれない自分”だけが残った。



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その状態が、


一番人を不安定にするのだと気づく。



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人は、


閉じているときよりも、


開きかけているときに壊れやすいのかもしれなかった。

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