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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

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第39話「小さな報せ」

ある朝、


いつもより少し早く職員が動いていた。



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廊下の空気が落ち着かない。



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点呼の声も短い。



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相沢はその違和感を感じながら整列する。



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やがて、


作業前に職員が一言だけ告げた。



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「一部の受刑者に通達がある」



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静まり返る。



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相沢はその“特別扱い”の空気に、


わずかな緊張を覚える。



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呼ばれた番号が順に出ていく。



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301。



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317。



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そして、


302。



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相沢の番号だった。



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胸が一瞬だけ強く動く。



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他の者とは別の通路へ。



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長期刑の男が目で見送る。



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言葉はない。



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廊下を進む。



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普段通らない場所。



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空気が違う。



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少しだけ清潔で、


少しだけ硬い。



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小さな部屋に入る。



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机。



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椅子。



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職員が書類を置く。



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短く言う。



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「仮釈放審査関連の確認」



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相沢は一瞬固まる。



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仮釈放。



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まだ先の話だと思っていた単語だった。



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書類には、


生活態度、作業評価、面会状況などが並んでいる。



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“数字化された自分”。



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そこに書かれているのは、


人間ではなく評価だった。



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職員は続ける。



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「まだ確定ではない」



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「ただの確認だ」



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その言い方は、


期待でも絶望でもない。



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ただの事務処理だった。



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相沢は紙を見つめる。



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“外へ出る可能性”。



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それは希望なのか。



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それとも、


もっと大きな不安の入口なのか。



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ふと、


母親の顔が浮かぶ。



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面会の時の沈黙。



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「家は変わってないから」



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あの言葉。



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もし自分が戻ったら、


本当にそこへ入れるのか。



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それとも、


ただ“戻された存在”として立ち尽くすのか。



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書類に目を戻す。



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チェック項目。



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態度良好。



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問題行動なし。



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淡々とした評価。



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だがそれは、


自分の人生の要約でもあった。



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部屋を出る。



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廊下に戻ると、


いつもの施設の音が聞こえた。



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だが少しだけ違う。



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すべてが“遠く感じる”。



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自分の未来が、


初めて紙の上に現れたことで、


現在が揺らいでいるようだった。



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夜。



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房。



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相沢は天井を見る。



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仮釈放。



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それは自由ではない。



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ただ、


“別の孤独へ移る可能性”に過ぎないのかもしれない。



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そして相沢は思う。



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罰とは、


終わるものではない。



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形を変えながら続いていくものなのだと。

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