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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

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第30話「窓の向こうの休日」

日曜日。



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施設の中にも、


わずかに“空気の緩む日”がある。



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作業は軽くなり、


廊下の音も少ない。



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だが完全な休みではない。



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ただ“時間の密度が少し薄くなる日”だった。



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相沢は朝から、


妙な落ち着かなさを感じていた。



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理由はすぐに分かった。



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外では休日だからだ。



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家族は休み。



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街は動き方を変える。



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そしてそのことを、


ここにいると逆に強く意識する。



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午前。



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窓の外が見える場所を通る。



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そこに、


遠くの道路が見えた。



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車が少ない。



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ゆっくり流れる時間。



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相沢は一瞬立ち止まる。



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休日の空気だった。



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あの“事故前に普通に存在していた世界”の空気。



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家族で買い物に行く。



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昼に外食する。



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テレビを見る。



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そんな当たり前の流れ。



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その中に、


自分はもう入れない。



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午後。



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食堂。



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テレビではバラエティ番組が流れている。



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笑い声。



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明るい音楽。



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誰かが冗談を言い、


誰かが笑う。



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その“軽さ”が、


逆に遠く感じる。



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相沢は画面を見ながら思う。



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笑うことは簡単だ。



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だが、


“安心して笑える場所”は、


簡単には戻らない。



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隣の男が言う。



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「外は今、家族連れ多いだろうな」



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相沢は何も返さない。



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男は続ける。



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「こういう日はさ」



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「逆に中の方が静かでいいって思う奴もいる」



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相沢は少しだけ顔を上げる。



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男は視線を画面に向けたまま言う。



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「外は外で、普通がうるさいからな」



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その言葉が少しだけ残る。



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“普通がうるさい”。



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たぶんそれは、


自分が失ったものでもある。



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夕方。



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房へ戻る途中、


遠くで笑い声がした。



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誰かが冗談を言っただけの音。



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だがそれが、


妙に心に引っかかる。



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笑いは、


本来どこにでもあるはずなのに。



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今の相沢には、


それが“許可された場所にしかないもの”のように思えた。



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夜。



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消灯。



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窓のない部屋。



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相沢は布団に横になる。



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外では休日が終わろうとしている。



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明日になれば、


また社会が動き出す。



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誰かが働き、


誰かが休み、


誰かが笑う。



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そのどこにも、


自分の名前は存在しない。



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相沢は静かに目を閉じる。



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そして思う。



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自由を失うということは、


行動の制限ではなく、


“世界の時間割から外されること”なのだと。

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