表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/123

第26話「呼ばれる番号」

新しい施設での朝は、


前の場所より少しだけ騒がしかった。


---


---


起床前から、


遠くで物音がする。


---


---


足音。


---


扉。


---


誰かの咳。


---


---


---


“人が生きている音”が、


前より近い。


---


---


---


相沢は薄く目を開ける。


---


---


---


天井はまだ慣れない。


---


---


---


ここへ来て数日。


---


---


---


だが身体はもう、


新しい時間へ適応し始めていた。


---


---


---


起床。


---


---


点呼。


---


---


整列。


---


---


---


流れは同じ。


---


---


---


しかし前の施設と違うのは、


人の数だった。


---


---


---


列が長い。


---


---


---


視線も多い。


---


---


---


その中で、


相沢は自分が少しだけ浮いている気がした。


---


---


---


新入り。


---


---


移送者。


---


---


---


説明はなくても、


空気で分かる。


---


---


---


作業場へ向かう途中、


後ろから声が飛ぶ。


---


---


---


「302!」


---


---


---


反射的に、


相沢は振り返れなかった。


---


---


---


別の男が返事をする。


---


---


---


「はい」


---


---


---


番号。


---


---


---


ここでは、


名前より先に番号が動く。


---


---


---


相沢は歩きながら考える。


---


---


---


自分の番号。


---


---


---


覚えている。


---


---


---


だが、


最近は名前より先に反応してしまう。


---


---


---


それが少し怖かった。


---


---


---


午前作業。


---


---


---


新しい配置。


---


---


新しい担当。


---


---


---


職員が短く説明する。


---


---


---


「ミスするな」


---


---


---


それだけ。


---


---


---


前の施設より、


言葉が少し荒い。


---


---


---


だが不思議と、


その方が現実的に感じた。


---


---


---


ここでは、


丁寧さより効率が優先されている。


---


---


---


作業開始。


---


---


---


周囲の動きを見ながら、


相沢も手を動かす。


---


---


---


その時、


隣の男が小さく言う。


---


---


---


「移送組か」


---


---


---


相沢は頷く。


---


---


---


男は手を止めず続ける。


---


---


---


「ここ、長い奴多いぞ」


---


---


---


長い。


---


---


---


刑期。


---


---


時間。


---


---


---


その両方を含んだ言葉だった。


---


---


---


男は笑わない。


---


---


---


ただ事実として話している。


---


---


---


「最初はみんな、自分の名前忘れたくない顔してる」


---


---


---


相沢は少しだけ手を止める。


---


---


---


男は続ける。


---


---


---


「でも慣れる」


---


---


---


「そのうち番号の方が楽になる」


---


---


---


相沢は返事ができない。


---


---


---


番号の方が楽。


---


---


---


それはつまり、


“個人でいることを諦める”という意味にも聞こえた。


---


---


---


昼休み。


---


---


---


食堂。


---


---


---


ここは前より会話が多い。


---


---


---


だが賑やかではない。


---


---


---


疲れた人間たちが、


最低限の音を出している感じだった。


---


---


---


相沢は黙って食事を取る。


---


---


---


その時、


遠くで職員が叫ぶ。


---


---


---


「417!」


---


---


---


誰かが立ち上がる。


---


---


---


誰も名前を呼ばない。


---


---


---


番号だけで世界が回る。


---


---


---


相沢は味噌汁を見つめながら思う。


---


---


---


名前には、


人生がある。


---


---


家族がある。


---


---


過去がある。


---


---


---


だが番号には、


管理しかない。


---


---


---


そしてここでは、


管理の方が優先される。


---


---


---


夕方。


---


---


---


房へ戻る。


---


---


---


廊下ですれ違う受刑者たち。


---


---


---


誰も相沢を知らない。


---


---


---


ただの新入り。


---


---


---


ただの番号。


---


---


---


それだけ。


---


---


---


夜。


---


---


---


消灯。


---


---


---


暗闇の中、


遠くで誰かが咳をする。


---


---


---


相沢は布団に横になる。


---


---


---


そしてふと思う。


---


---


---


もしここに何年もいたら、


自分はどうなるのだろう。


---


---


---


家族に呼ばれる名前より、


職員に呼ばれる番号の方が、


自然に感じる日が来るのだろうか。


---


---


---


もしそうなった時、


自分はまだ“相沢悠真”なのだろうか。


---


---


---


静かな夜だった。


---


---


---


だがその静けさの中で、


相沢は少しずつ、


“名前の輪郭”が薄れていく感覚を覚えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ