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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第1章 「いつもの席」

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第8話「朝焼けのコンビニ」

24時間営業のコンビニは、夜と朝の境界に浮かんでいた。



---


駐車場には配送トラック。


仕事前の作業員。


眠そうな大学生。



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そして、


酒臭いまま笑い続ける35歳の男たち。



---


自動ドアが開く。


冷たい空気が相沢の顔に当たる。



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一瞬だけ、頭が少し冴える。



---


店内は静かだった。


レジの店員は疲れた顔で無言のまま商品を通している。



---


「コーヒー買うわ」


直樹が言う。



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「俺エナドリ」


健が笑う。



---


「まだ元気だなお前ら……」


翔が眠そうに言う。



---


優斗は無言で水を取る。



---


相沢は飲み物の棚の前で立ち止まる。



---


ブラックコーヒー。


眠気覚まし。


胃薬。



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その並びが妙に現実的だった。



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鏡代わりになっている冷蔵ケースに、自分の顔が映る。



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目が赤い。


顔色が悪い。


スーツは少し乱れている。



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会社で見せる顔じゃない。



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“帰らないと”



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ようやくその感覚が少し戻る。



---


相沢はスマホを取り出す。



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5:57。



---


数字を見た瞬間、胃が沈む。



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あと少しで朝だ。



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現場までは車で40分。



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寝る時間はない。



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このまま行けば、ほぼ徹夜。


しかも酒が残ったまま。



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頭では危険だと分かっている。



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分かっているのに。



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「相沢ー」


後ろから健の声。



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「顔死んでるぞ」



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笑い声。



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「もう会社休めば?」


翔が笑う。



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「でもあいつ今日上司来る日だろ?」


直樹が言う。



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「終わったな」


また笑いが起きる。



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相沢は苦笑いするしかない。



---


「……ほんとやばいわ」



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そう言った瞬間。



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隆が缶コーヒーを投げて寄越す。



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「飲んどけ」



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受け取る。


冷たい。



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「まあなんとかなるって」


隆は当然のように言う。



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“なんとかなる”



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その言葉を、今まで何回使ってきただろう。



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飲みすぎても。


寝不足でも。


酒が残っていても。



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全部、


“なんとかなる”


で押し流してきた。



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実際、今までは大きな事故はなかった。



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注意はされた。


怒られもした。



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でも、


取り返しのつかないことは起きていない。



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だから感覚が麻痺していく。



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“今回も大丈夫”



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その根拠のない感覚が積み重なっていく。



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コンビニを出る。



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空はさらに明るくなっていた。



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朝焼けが道路を照らし始めている。



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静かな道。


信号。


通勤車両。



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普通の一日が始まろうとしている。



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その中に、自分たちだけが取り残されている気がした。



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「次どうする?」


健が笑いながら言う。



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まだ終わらせる気がない。



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相沢は一瞬、言葉を失う。



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眠い。


苦しい。


帰りたい。



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でも。



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ここで一人だけ離れる想像ができない。



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“今さら空気を壊せない”



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その考えが、最後の理性をゆっくり押し潰していく。



---


「……少しだけなら」



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また言ってしまう。



---


その瞬間、全員が笑う。



---


朝焼けの中で、


また次の場所へ向かって歩き始める。



---


もう、


まともな判断は残っていなかった。



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