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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

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第4話「名前のない反復」

ここでの生活は、繰り返しでできている。



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だが、その繰り返しは単調ではない。



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“変化がないこと”が前提として設計されている。



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朝。



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点呼。



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食事。



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作業。



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休憩。



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作業。



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夕食。



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就寝。



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その順番は、毎日ほぼ同じだ。



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相沢はもう数日で、それを身体で覚え始めていた。



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考える前に動く。



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それが一番楽だった。



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午前の作業場。



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今日の指示は少しだけ違った。



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「分類精度の確認を行う」



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数字のチェック。



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二重確認。



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単純だが、少しだけ神経を使う。



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相沢は淡々と進める。



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一つの誤りもないまま時間が過ぎる。



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そのことに気づいたとき、


少しだけ違和感があった。



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“正確にやっている自分”に、


何の感情も伴っていない。



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外にいた頃なら、


少しは達成感があったはずだった。



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だが今は違う。



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正確さは評価されるものではなく、


ただの通過条件だ。



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昼。



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食堂。



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いつも通りの静けさ。



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だが今日は、隣の男が少し違う動きをしていた。



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スプーンを止めている。



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ただ皿を見ている。



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相沢は気にしない。



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しかし数分後、


その男は突然立ち上がる。



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職員がすぐに反応する。



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「どうしましたか」



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男は何も言わない。



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ただ立っている。



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そして、ゆっくり座り直す。



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それだけだった。



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誰もそれ以上追及しない。



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その出来事は、


何事もなかったように処理される。



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午後。



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作業。



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相沢はその出来事を思い出す。



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“何も起こらなかったこととして扱われる出来事”。



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ここではそれが普通だ。



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夕方。



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廊下。



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相沢はふと、自分の名前が呼ばれていない時間の長さに気づく。



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ここでは名前は重要ではない。



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呼ばれるときだけ存在する。



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それ以外の時間は、


ただの単位だ。



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夜。



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布団に座る。



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今日も何も起きていない。



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だが何かが少しずつ削られている気がする。



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それが何かは分からない。



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ただ、


残っているものが少し軽くなっている。



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相沢は目を閉じる。



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明日も同じだ。



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それが分かっているのに、


なぜか安心できない。



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繰り返しの中で、


自分だけが少しずつ“薄くなる”感覚がある。



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そしてその薄さが、


ここでの唯一の変化だった。

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