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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

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第3話「外の温度」

朝の点呼が終わったあと、


相沢は一瞬だけ“違和感”を覚えた。



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それは感情ではなく、


温度のズレのようなものだった。



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廊下を歩く列の中で、


空気だけが少し違う。



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視線を上げる。



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窓がある。



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そこから見える外は、


昨日と同じはずなのに、


どこか“遠い”。



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空は明るい。



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雲が動いている。



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それなのに、


その光が届いていないように見える。



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相沢は足を止めかけるが、


列は止まらない。



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「進んでください」



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後ろから声。



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再び歩く。



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そのまま作業場へ向かう。



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午前の作業は昨日と同じ分類作業だった。



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書類。



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番号。



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区分。



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単純な繰り返し。



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だが今日、


相沢は少しだけ集中できなかった。



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理由は分からない。



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ただ頭の片隅に、


窓の外の“光”が残っている。



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昼休み。



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食堂。



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いつもと同じ席。



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同じ皿。



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だが今日は、


隣の男が小さく呟いた。



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「外、暑いのかな」



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それだけだった。



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相沢は反応しない。



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だがその言葉は、


妙に残る。



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“外”



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その単語が、


ここでは異物のように響く。



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午後の作業中、


相沢は一度だけミスをする。



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区分番号の見落とし。



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すぐに修正される。



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職員は何も言わない。



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ただチェックを付けるだけ。



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怒られない。



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だがそれは許されているわけでもない。



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ただ“修正される対象”になっただけだ。



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その事実が少し重い。



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夕方。



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作業終了。



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移動。



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廊下で再び窓の前を通る。



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相沢は今度は立ち止まる。



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許可はない。



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だが止まることはできる。



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窓の外を見る。



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人が歩いている。



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車が動いている。



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どこにでもある普通の風景。



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その“普通”が、


ここでは異常に見える。



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なぜあそこにいる人たちは、


ここにいないのか。



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なぜ自分はここにいるのか。



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答えはもう裁判で出ている。



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それでも、


身体は問い続ける。



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列の後ろから声。



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「行きますよ」



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相沢は最後にもう一度だけ外を見る。



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そして歩き出す。



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夜。



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部屋。



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布団に座る。



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今日は少しだけ考えが多い。



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“外の温度”



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その違和感は消えない。



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ここは変わらないのに、


外だけが動いている。



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相沢は理解する。



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ここは時間が止まっているのではない。



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“時間から切り離されている”だけだ。



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そして切り離された側には、


温度のない夜が続く。

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