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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

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第1話「同じ空気の別世界」

朝は、どこでも同じように来るはずだった。



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だがここでは違った。



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目が覚めた瞬間、


“朝が来た”という実感より先に、


“管理が始まった”という感覚がある。



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相沢はゆっくり身体を起こす。



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布団は薄い。



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だが不思議と寒さはない。



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部屋には窓がある。



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しかし外は見えにくい角度になっている。



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時間だけが見える空間だ。



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起床の合図が鳴る。



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機械的な音。



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同じタイミングで、周囲が動き始める気配がする。



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隣の区画から足音。



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物音。



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会話はない。



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ここでは“音”が必要最低限に制限されている。



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相沢は立ち上がる。



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洗面所へ向かう。



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鏡の前に立つ。



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そこに映る自分は、


昨日と同じ顔をしている。



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しかし違うのは、


その顔が“社会から切り離された顔”だということだ。



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制服を着る。



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作業着のようなもの。



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服が変わると、


役割が変わる感覚がある。



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部屋を出る。



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廊下にはすでに数人が並んでいる。



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誰も目を合わせない。



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“同じ場所にいる別の個体”



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それ以上でも以下でもない関係。



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移動が始まる。



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食堂へ。



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そこは広いが、静かだ。



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椅子の音だけが響く。



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食事は決められている。



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選択はない。



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相沢は皿を見る。



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栄養としての食事。



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味は薄い。



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だが問題は味ではない。



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“自分で決めていない”ことだ。



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隣の人物が少し動く。



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誰かが咳をする。



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しかし誰も気にしない。



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ここでは他人の存在は背景に近い。



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食事が終わる。



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移動指示。



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作業時間へ。



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相沢は歩きながら思う。



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ここでは“時間割”がすべてを支配している。



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会社よりも厳密だ。



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しかし不思議と、


それは安心にも似ている。



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考えなくていいからだ。



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作業場に入る。



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単純な作業。



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整理。



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点検。



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補助。



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指示は短い。



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「これを確認してください」



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「はい」



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そのやり取りだけで進む。



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誰も評価しない。



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誰も褒めない。



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誰も怒らない。



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ただ進むだけ。



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時間が少しずつ削られていく。



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ふと、相沢は思う。



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外にいた頃、


自分は“選んでいるつもり”だった。



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だが今は違う。



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選ぶ余地がないのではなく、


“選択という概念そのものが薄れている”。



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午後。



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休憩。



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同じ空間で、


数人が無言で座っている。



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誰かが天井を見ている。



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誰かが手を動かしている。



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会話はない。



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しかし完全な孤独でもない。



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奇妙な均衡。



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相沢はその中で、


初めて気づく。



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ここには“悪意”がない。



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だが“救い”もない。



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ただ状態だけがある。



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夜に近づくにつれて、


時間の輪郭がぼやけていく。



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そして相沢は理解する。



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これは罰ではなく、


“社会から切り離された時間の延長”だということを。



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夜が来る。



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同じように、静かに。

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