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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第2章「朝が裁かれる」

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第25話「収監前夜」

判決のあと、時間の流れは一度途切れたように感じた。



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だが現実は止まっていない。



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控室で待機するように言われる。



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その間、誰も多くは話さない。



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弁護士は必要最低限の説明だけを繰り返す。



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「実刑が確定しました」



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「執行猶予はつきません」



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その言葉は新しい情報ではない。



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確認だ。



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相沢は頷く。



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不思議なほど、感情は動かない。



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ショックでもない。



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むしろ、


すでに“知っていた結果”の確認に近い。



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ただ一つだけ、


身体の奥が重い。



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控室の窓から外を見る。



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普通の街。



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普通の人。



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それが遠い。



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同じ世界のはずなのに、


もう接続されていない。



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数時間後。



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移送の準備が始まる。



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手続きは淡々としている。



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金属音。



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書類。



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指示。



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誰も相沢を“人”として扱わないわけではない。



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ただ、“状態”として扱っているだけだ。



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「こちらへ」



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職員に促される。



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廊下を歩く。



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その間、誰かとすれ違う。



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だが視線は交わらない。



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それが自然だと分かってしまうのが怖い。



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外に出ると、空気が少しだけ冷たい。



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車両が待っている。



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黒い。



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無言。



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扉が開く。



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乗る瞬間、


一度だけ後ろを振り返る。



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裁判所。



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白くて、何も感情のない建物。



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あそこに、


“過去の自分”は置いてきた。



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車の扉が閉まる。



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音が重い。



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動き出す。



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窓の外がゆっくり流れる。



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街は普通だ。



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普通すぎる。



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その普通さが、


一番遠い。



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相沢は手を見る。



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この手でハンドルを握った。



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この手で、


すべてが始まった。



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でも今はもう、


何も握れない。



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車は進む。



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目的地は一つしかない。



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「収監」



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その言葉が、


頭の中で静かに反響する。



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だが不思議と、


恐怖は薄い。



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代わりにあるのは、


“終わらないことへの理解”だった。



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罪は終わらない。



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ただ形を変えるだけだ。



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そしてその形の中で、


人は生き続ける。



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車が少し揺れる。



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相沢は目を閉じる。



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もう戻れない。



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でもまだ続く。



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その矛盾だけが、


静かに残っていた。

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