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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第2章「朝が裁かれる」

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第17話「起訴状の名前」

その日、封筒は静かに届いた。



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郵便受けに落ちる音すら小さい。



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相沢は一度それを見て、すぐには開けなかった。



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嫌な予感ではなく、


“もう知っている感覚”に近かった。



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部屋に戻って、封を切る。



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中には数枚の書類。



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その一番上に、はっきりと書かれていた。



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> 起訴状





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視線がそこで止まる。



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「被告人:相沢」



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その文字は、名前ではなく役割だった。



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内容はすでに知っているはずのことの再構成だった。



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飲酒状態での運転


交差点での事故


被害者の負傷


注意義務違反




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文章は淡々としている。



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そこに“人間の感情”はない。



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ただ事実を並べることで、


責任が完成していく。



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相沢は椅子に座る。



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紙を見たまま動かない。



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「ここまで来たか」



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声に出さずに思う。



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でも不思議と、


崩れはしない。



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もう崩れる段階は過ぎている。



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そのとき、スマホが震える。



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表示は弁護士。



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「起訴されましたね」



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開口一番。



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相沢は何も言わない。



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弁護士は続ける。



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「争点はほぼ一点です」



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少し間。



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「“故意ではないが、予見可能だったか”です」



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その言葉が残る。



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予見可能。



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つまり、


止められたはずかどうか。



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相沢は少し息を吐く。



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「……止められたと思いますか」



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弁護士は少しだけ沈黙する。



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「それは裁判所が決めます」



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逃げない答え。



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だが、答えでもない。



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通話が終わる。



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部屋は静かになる。



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窓の外では、


普通に人が歩いている。



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その“普通”が、


一番遠い。



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その夜、相沢は初めて思う。



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これは事故の話ではない。



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「人生が裁判に変わっただけだ」と。

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