第15話「線引きの会議」
会社の会議室は、すでに別の案件で使われていた。
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そのため今回は、より小さな応接スペースに集められている。
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机の配置が近い分、距離感が妙に生々しい。
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相沢の名前は、もうそこにない。
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代わりに資料のタイトルだけがある。
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> 元従業員・事故関連報告
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「では、社内対応の最終整理に入ります」
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総務が淡々と始める。
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誰も相沢のことを“本人”として扱わない。
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「すでに懲戒解雇は確定しています」
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その確認は、儀式のように繰り返される。
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次に安全管理責任者が言う。
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「再発防止策として、飲酒関連の注意喚起を強化します」
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誰かが小さく頷く。
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それは“組織の問題”へ変換する作業だ。
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上司は黙っている。
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だが資料を見ている視線だけは、わずかに重い。
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「現場での指導記録は残っていますか?」
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誰かが聞く。
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「はい。ただし最終的には本人判断の領域です」
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その言葉で、
線引きが確定する。
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会社は“関与したが責任はない”という位置に立つ。
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そのために必要なのは、
個人の側に線を引くことだった。
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「今後の対応ですが」
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広報担当が言う。
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「会社名の公表は限定的にします」
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「ただし事実関係については、否定しません」
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つまり、
切り離すが隠さない。
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それは防御でもあり、
責任の分散でもある。
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上司が一度だけ口を開く。
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「……彼は、現場では真面目でした」
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その言葉は評価ではなく、
整理のための過去形だった。
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誰もそれ以上は続けない。
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会議は終わる。
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椅子が引かれる音。
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書類が閉じられる音。
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そこにはもう、
相沢という“人間”は存在していない。
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ただのリスク事例として、
処理された後の空白が残るだけだった。
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廊下に出ると、
窓から光が差している。
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普通の昼。
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何も壊れていない世界。
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だが会議室の中だけは、
確実に何かが切り離されていた。
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相沢はまだ拘束されていない。
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それでもすでに、
社会的には“切断済み”だった。




