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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第2章「朝が裁かれる」

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第12話「一人になるまで」

面会室は、思っていたより狭かった。



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ガラス一枚で区切られた空間。



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音は少し遅れて届く。



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向こう側に、母親が座っている。



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昨日より少し疲れた顔をしていた。



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最初の数秒、どちらも話さない。



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沈黙が先に埋まる。



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「……ニュース、見た」



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母親が言う。



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相沢は頷く。



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「全部、ほんとなの?」



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その問いは、責めではない。



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理解しようとする問いだ。



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相沢は少し黙る。



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“ほんと”とは何か。



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映像。


検査結果。


供述。



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それらは全部事実だ。



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でも、自分の中の感覚とは違う。



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「……分からない」



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その言葉しか出ない。



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母親は一度だけ目を伏せる。



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そして言う。



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「あなた、そんな子じゃなかったよね」



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その言葉は刃ではない。



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でも深く刺さる。



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相沢は視線を落とす。



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“そんな子”



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その自分は、もうどこにもいない。



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「会社、辞めたって聞いた」



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相沢は小さく頷く。



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「もう戻れないの?」



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その問いに、


すぐには答えられない。



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戻る場所がどこなのか分からない。



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「……分からない」



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母親は少しだけ息を吸う。



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「これからどうするの」



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未来の問い。



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一番重い質問。



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相沢は黙る。



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頭の中には何もない。



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あるのは、


空白だけだ。



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「一人で、全部背負うの?」



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その言葉で少しだけ胸が締まる。



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背負う。



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その言葉はまだ現実ではない。



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ただ、


“そうなる可能性”だけがある。



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相沢は小さく息を吐く。



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「……たぶん」



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その瞬間、


母親の表情が少しだけ揺れる。



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でも泣かない。



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代わりに静かに言う。



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「帰ってきなさい、って言えないね」



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その言葉が一番重かった。



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帰る場所はある。



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でも“帰れない人間”になっている。



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面会時間が終わる。



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立ち上がる音。



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ガラス越しに距離ができる。



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母親は最後に一度だけ見て、


ゆっくりと立ち去る。



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相沢はその背中を見ている。



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残るのは自分だけだ。



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廊下に出ると、


空気がさらに冷たい。



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一人になるまでの過程が、


静かに進んでいる。



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そして相沢は理解する。



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ここから先は、


誰かに裁かれるのではなく、


“誰からも関わられなくなる時間”だと。

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