第4話「止まらない連鎖」
時間の感覚が、すでに壊れ始めていた。
時計はある。スマホもある。だが、それらは“現実の時間”を示していない。
ここでは、誰かが「終わり」と言わない限り、夜は続く。
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「次、行くぞ」
隆の一言で、流れが決まる。
誰も異論を出さない。出す必要がない空気ができている。
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相沢はグラスを見ている。
中身はすでに何杯目か分からない酒だ。
喉は熱く、体の奥が少しずつ鈍くなっている。
それでも、立ち上がる動作は自然に出てしまう。
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「お前、まだいけるだろ?」
健が笑う。
その言葉は問いではない。
確認でもない。
ただの“同意の強制”だ。
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「いけるだろ?」
もう一度言われる。
相沢は一瞬、視線を落とす。
いけるかどうかではない。
いかなければ、この場が崩れる。
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「……まあな」
そう言った瞬間、空気が軽くなる。
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「ほらな」
「やっぱそうだろ」
「相沢はそういうやつだよ」
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“そういうやつ”
その言葉に、形が与えられる。
断らない人間。
場を壊さない人間。
飲めることが普通の人間。
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それはいつの間にか、自分の輪郭になっていた。
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店を出る準備が始まる。
誰かが会計を雑に済ませる。
誰かがタバコに火をつける。
誰かが次の店の話をしている。
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相沢は少し遅れて立ち上がる。
足元がわずかに重い。
それでも誰も気にしない。
気にする必要がない関係になっている。
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外に出ると、夜風が少し冷たい。
だが頭は冴えない。
むしろ、さっきより深く沈んでいく感覚がある。
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「次どこ行く?」
健がスマホを見ながら言う。
「カラオケでいいだろ」
「いや、もう一杯だけ飲むか」
意見はあるようで、最初から決まっている。
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相沢は後ろを歩く。
前にいるのは、いつもの背中たちだ。
何度も見てきた背中。
抜け出す想像をしたこともある背中。
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でも、その一歩が出ない。
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理由は単純だ。
ここから抜けると、どこにも居場所がなくなる気がする。
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「相沢、遅ぇぞ」
振り返りながら隆が言う。
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その声で、また歩き出す。
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この夜は、まだ続く。
誰も止めない限り。
そして、
止める言葉を持っている人間は、ここにはいない。
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