第9話「名前が出る日」
その連絡は、突然だった。
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警察からではない。
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弁護士からでもない。
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ネットの通知だった。
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相沢は一度見なかったふりをした。
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だが、画面は消えない。
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「記事更新」
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指が止まる。
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開く。
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そこには、昨日までとは違う情報があった。
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> 飲酒運転事故の運転者、土木関連会社勤務の男と判明
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相沢は一瞬、呼吸を忘れる。
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“判明”
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その言葉が、名前の代わりに置かれている。
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さらにスクロールすると、
会社名の一部がぼかされているが分かる形で出ている。
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そして最後に、
小さく追加されている。
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> 関係者への影響も広がっている
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相沢はスマホを置く。
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だが遅い。
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もう外に出ている。
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その日の夕方、
玄関の前に人が立つ。
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スーツ姿の男。
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見覚えはない。
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しかし名刺を見て理解する。
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「週刊系メディアです」
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相沢はドアを閉める。
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しかし外から声がする。
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「事実確認だけで構いません」
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「会社を解雇されたと伺っていますが」
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その言葉が、
現実をさらに押し固める。
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ドアの向こうで、
カメラのシャッター音のようなものが聞こえる。
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相沢は背を向ける。
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その場に座り込む。
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“名前が出る”
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それは、ただの情報ではない。
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社会の中に固定されることだ。
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もう「誰か」ではいられない。
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「その人」になる。
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スマホがまた鳴る。
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今度は知らない番号。
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出ない。
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しかし続く。
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そのとき、母親の声が奥からする。
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「……外、来てるの?」
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相沢は答えられない。
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静かに時間が流れる。
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そして理解する。
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これからは、
どこにも“逃げ場”がない。
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社会が、
一つの名前を作り上げていく。
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それが、
自分のことだとはまだ信じきれないまま。




