第6話「ニュースになる朝」
自宅に戻った相沢は、ドアを閉めた瞬間に力が抜けた。
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音が消える。
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外の世界と切り離されたはずなのに、落ち着きは来ない。
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スマホが震えている。
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画面には通知が溜まっていた。
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・未読メッセージ(会社)
・不在着信(警察)
・知らない番号
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その中に、一つだけ異質なものが混ざっていた。
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「ニュース」
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指が止まる。
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開く。
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そこには短い記事があった。
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> 市内交差点で飲酒運転とみられる事故
1名が負傷
運転者は現行犯逮捕
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相沢は画面を見たまま動かない。
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“飲酒運転とみられる”
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その言葉が、自分の中で重く反響する。
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まだ確定ではない表現。
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だが実質的には確定と同じだ。
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スクロールすると、
さらに情報が出てくる。
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・見通しの良い交差点
・早朝時間帯
・周囲に目撃者複数
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それはもう“自分の出来事”ではなく、
“社会の出来事”として扱われている。
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相沢はスマホを置く。
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手が少し震えている。
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そこへ、玄関のインターホンが鳴る。
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一瞬止まる。
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誰か分かる前に、音がもう一度鳴る。
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母親だった。
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ドアを開けると、表情が固い。
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「ニュース見た」
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短い言葉。
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それだけで十分だった。
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相沢は何も言えない。
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否定も説明もできない。
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母親は少しだけ息を吸う。
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そして静かに言う。
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「どうして……こんなことに」
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その問いは責めではない。
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でも一番重い。
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相沢は視線を落とす。
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答えはない。
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いや、あっても言葉にならない。
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「会社は?」
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次の問い。
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相沢は少し黙る。
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「……辞めた」
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その一言で空気が変わる。
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母親は何も言わない。
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ただ少しだけ目を閉じる。
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沈黙。
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外では車の音。
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誰かの生活音。
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世界は普通に動いている。
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その中で、
ここだけが止まっている。
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母親が小さく言う。
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「これから、どうするの」
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相沢は答えられない。
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未来がないのではなく、
想像できない。
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ニュースの中の自分と、
今ここにいる自分が、
少しずつずれていく。
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どちらが本物なのか分からないまま、
ただ時間だけが進んでいく。
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