第5話「会社という切断線」
警察署からの連絡のあと、会社の空気は一気に変わった。
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相沢はまだ正式な処分を知らないまま、呼び出しを受けることになる。
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応接室。
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いつもより椅子が遠く感じる部屋。
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そこには上司と総務、そして人事担当が座っていた。
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誰も雑談をしない。
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資料がすでに机の上に揃っている。
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「結論から伝えます」
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人事担当が言う。
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その一言で、
相沢はすべてを察する。
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「今回の件について、会社としては重大な規律違反と判断しました」
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静かな声。
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感情はない。
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「飲酒運転、そして事故発生」
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「会社への信用失墜」
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言葉が並べられていく。
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それはもう“説明”ではなく“確定作業”だった。
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上司が一度だけ視線を落とす。
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相沢を見るが、
すぐに逸らす。
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「正直に言うと、擁護はできません」
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その言葉は、
冷たいが事実でもある。
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「現場では注意もしていました」
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「ただ、ここまでの事態になるとは想定していませんでした」
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それは“距離を取るための過去形”だった。
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人事担当が書類を差し出す。
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そこには一行だけ明確に書かれている。
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> 懲戒解雇
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相沢はそれを見て、少しだけ呼吸が止まる。
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でも不思議と、
驚きはない。
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すでに警察の段階で、
社会的には終わっていた。
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会社はその“確認”をしているだけだ。
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「サインをお願いします」
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静かな声。
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拒否はできるが意味はない。
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相沢はペンを持つ。
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手が少し重い。
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だが書くしかない。
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名前を書いた瞬間、
紙がただの契約書ではなくなる。
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切断の証明書になる。
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「以上で手続きは終了です」
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人事担当が言う。
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上司は一度だけ口を開く。
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「……残念です」
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それだけだった。
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それ以上でも以下でもない。
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会議室を出る。
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廊下の音が少し遠い。
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自分の足音だけが響く。
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会社という場所が、
一気に“他人の建物”になる。
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外に出ると、
空気が少しだけ暖かい。
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でもそれは、
救いではない。
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相沢は思う。
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ここまで来るのに、
何が間違いだったのか。
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飲酒か。
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友人か。
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断れなかった性格か。
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でもどれも違う気がする。
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“止まる場所がなかった”
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その一言だけが残る。
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そして彼は、
もう会社員ではなくなる。
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ただの“処理された事例”として、
社会の外側へ押し出されていく。




