第1話「止まったままの朝」
薄い光が、天井の一部だけを白く照らしていた。
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相沢はベッドの上で、まばたきだけを繰り返している。
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眠っていないのか、起きているのか分からない。
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ただ身体だけがそこにある状態だった。
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遠くで鍵の音がする。
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金属の音が、やけに大きく響く。
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ドアが開く。
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「相沢さん、準備お願いします」
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低い声。
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形式的な言葉。
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警察だ。
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その事実だけが、ゆっくりと理解されていく。
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立ち上がろうとするが、体が重い。
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昨日の記憶が断片的に浮かぶ。
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交差点。
ブレーキ。
倒れていた小さな影。
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そこで思考が止まる。
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“続き”を考えようとすると、
頭が拒否する。
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廊下に出る。
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手錠の感触はまだない。
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だがそれが来ることは分かっている。
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警察署の廊下は冷たい。
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無機質な白い光。
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誰かの話し声。
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書類の音。
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自分だけが場違いな存在のように感じる。
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「飲酒はされていましたね」
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取り調べ室に入ってすぐ、そう言われる。
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相沢は少し黙る。
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喉が乾いている。
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言葉が出にくい。
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「……はい」
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それだけ。
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「事故前の行動を説明してください」
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その瞬間、記憶が揺れる。
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居酒屋。
カラオケ。
ラーメン。
コンビニ。
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ずっと“誰かと一緒にいた”。
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でもどこかで、
自分の意思が薄れていた。
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「帰るつもりは?」
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その問いに、
すぐ答えられない。
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本当は帰るつもりだった。
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でも帰らなかった。
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それが全てだ。
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「……覚えてません」
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その言葉が出た瞬間、
担当警察官のペンが止まる。
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静かな空気。
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そして、
事実だけが積み上がっていく。
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この部屋の中で、
相沢という人間は少しずつ“記録”に変わっていく。
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まだ裁かれてはいない。
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だがすでに、
戻れない方向へ進んでいる。
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