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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第2章「朝が裁かれる」

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第1話「止まったままの朝」

薄い光が、天井の一部だけを白く照らしていた。



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相沢はベッドの上で、まばたきだけを繰り返している。



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眠っていないのか、起きているのか分からない。



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ただ身体だけがそこにある状態だった。



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遠くで鍵の音がする。



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金属の音が、やけに大きく響く。



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ドアが開く。



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「相沢さん、準備お願いします」



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低い声。



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形式的な言葉。



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警察だ。



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その事実だけが、ゆっくりと理解されていく。



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立ち上がろうとするが、体が重い。



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昨日の記憶が断片的に浮かぶ。



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交差点。


ブレーキ。


倒れていた小さな影。



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そこで思考が止まる。



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“続き”を考えようとすると、


頭が拒否する。



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廊下に出る。



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手錠の感触はまだない。



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だがそれが来ることは分かっている。



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警察署の廊下は冷たい。



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無機質な白い光。



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誰かの話し声。



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書類の音。



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自分だけが場違いな存在のように感じる。



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「飲酒はされていましたね」



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取り調べ室に入ってすぐ、そう言われる。



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相沢は少し黙る。



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喉が乾いている。



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言葉が出にくい。



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「……はい」



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それだけ。



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「事故前の行動を説明してください」



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その瞬間、記憶が揺れる。



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居酒屋。


カラオケ。


ラーメン。


コンビニ。



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ずっと“誰かと一緒にいた”。



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でもどこかで、


自分の意思が薄れていた。



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「帰るつもりは?」



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その問いに、


すぐ答えられない。



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本当は帰るつもりだった。



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でも帰らなかった。



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それが全てだ。



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「……覚えてません」



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その言葉が出た瞬間、


担当警察官のペンが止まる。



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静かな空気。



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そして、


事実だけが積み上がっていく。



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この部屋の中で、


相沢という人間は少しずつ“記録”に変わっていく。



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まだ裁かれてはいない。



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だがすでに、


戻れない方向へ進んでいる。



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