第27話「朝が怖い」
ラーメン屋を出ると、夜の空気が少し湿っていた。
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時計を見る。
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2時を過ぎている。
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本来なら、とっくに寝ている時間。
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だが相沢の一日は、まだ終わる気配がない。
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「どうする? まだ行く?」
健が笑う。
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またその言葉。
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“まだ”。
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どこまで行けば終わりなのか、
誰も決めていない。
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翔は眠そうに笑っている。
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隆はまだ元気そうだ。
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直樹はスマホを見ている。
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優斗は黙ったまま。
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相沢だけが、
少しずつ現実に引き戻され始めていた。
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朝が近づいている。
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その事実だけが、
頭の奥で重くなっていく。
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会社。
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上司。
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現場。
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そして、
車。
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“運転”
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その言葉が急に現実味を帯びる。
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酒は残っている。
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眠気も限界だ。
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それなのに、
まだ帰っていない。
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相沢は小さく息を吐く。
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「……俺、そろそろ帰るわ」
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その言葉が出た瞬間、
空気が少し止まる。
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健が笑う。
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「え、今さら?」
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隆も続ける。
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「ここまで来て?」
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翔がニヤつく。
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「朝までコースだろ普通」
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笑い声。
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悪意のない圧力。
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でもそれが一番重い。
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相沢は少し黙る。
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帰るべきだ。
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頭では分かっている。
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でも、
ここで抜ける想像ができない。
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“ノリ悪い”
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“最近付き合い悪い”
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その空気が怖い。
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ここを離れたら、
本当に一人になる気がする。
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だから言葉が止まる。
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「……少しだけな」
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また出てしまう。
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その瞬間、
空気が戻る。
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「ほらな」
健が笑う。
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「相沢は帰れないんだよ」
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その言葉に、
相沢は何も返せない。
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返せないこと自体が、
もう答えだった。
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歩き出す。
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街は少し静かになっている。
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終電が終わった時間。
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それでも、
どこかの店はまだ開いている。
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自分たちみたいな人間のために。
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相沢は歩きながら思う。
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“朝が来るのが怖い”
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帰った瞬間、
現実が始まる。
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だから終わらせたくない。
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でも、
終わらない夜は、
少しずつ人間を壊していく。
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そのことに、
相沢はまだ気づけていなかった。
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