第22話「夜がまた始まる」
店を出た時、空の色はゆっくり変わり始めていた。
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昼と夜の境界。
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その時間帯を見て、相沢は妙な感覚になる。
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“また夜になる”
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本来なら、
もう終わっているはずの一日だった。
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でも自分たちは、
まだ続いている。
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「腹減ったな」
翔が伸びをしながら言う。
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「じゃあ飯行くか」
健が当然のように返す。
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「そのあとどうする?」
隆が笑う。
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“そのあと”
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まだ次がある前提。
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相沢は小さく息を吐く。
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もう疲れている。
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眠い。
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頭も重い。
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でもその感覚すら、
だんだん普通になっている。
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歩きながら、街の景色を見る。
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仕事帰りの人たち。
買い物袋を持つ家族。
制服姿の学生。
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みんな、
ちゃんと“今日”を終えようとしている。
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その中で自分たちだけが、
また夜へ戻ろうとしている。
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「相沢、今日会社大丈夫なの?」
直樹が聞く。
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相沢は少し黙る。
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大丈夫ではない。
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連絡も返していない。
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上司からの着信も無視したまま。
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でも、
今さらそれを認めると、
全部が現実になる気がする。
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「……まあ、なんとか」
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その言葉が出る。
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また“なんとか”。
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今まで何度も使ってきた言葉。
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そして何度も、
問題を先送りしてきた言葉。
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「ほら、相沢は真面目だから大丈夫だろ」
隆が笑う。
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“真面目”
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その言葉が妙に苦しい。
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本当に真面目なら、
今ここにはいない。
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店に入る。
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また同じような空気。
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また同じような匂い。
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また同じような笑い声。
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席に座ると、
もう自然にグラスが並ぶ。
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誰も確認しない。
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誰も止めない。
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飲むことが前提。
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相沢はその光景をぼんやり見ている。
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ここにいる限り、
ずっと同じことを繰り返す気がした。
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夜になる。
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飲む。
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帰れない。
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朝になる。
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また集まる。
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その繰り返し。
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出口のない輪。
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スマホがまた震える。
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会社。
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相沢は画面を見たまま止まる。
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出なければいけない。
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でも、
今さら出ても遅い気がする。
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遅れた現実ほど、
怖いものはない。
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「出ないの?」
健が笑う。
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「もう怒られてるだろ」
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笑い声。
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相沢も少しだけ笑う。
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笑うしかない。
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もう正常な判断が、
どこにあるのか分からなくなっていた。
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そしてまた、
夜が始まる。
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