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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第1章 「いつもの席」

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第22話「夜がまた始まる」

店を出た時、空の色はゆっくり変わり始めていた。



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昼と夜の境界。



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その時間帯を見て、相沢は妙な感覚になる。



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“また夜になる”



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本来なら、


もう終わっているはずの一日だった。



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でも自分たちは、


まだ続いている。



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「腹減ったな」


翔が伸びをしながら言う。



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「じゃあ飯行くか」


健が当然のように返す。



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「そのあとどうする?」


隆が笑う。



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“そのあと”



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まだ次がある前提。



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相沢は小さく息を吐く。



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もう疲れている。



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眠い。



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頭も重い。



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でもその感覚すら、


だんだん普通になっている。



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歩きながら、街の景色を見る。



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仕事帰りの人たち。


買い物袋を持つ家族。


制服姿の学生。



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みんな、


ちゃんと“今日”を終えようとしている。



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その中で自分たちだけが、


また夜へ戻ろうとしている。



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「相沢、今日会社大丈夫なの?」


直樹が聞く。



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相沢は少し黙る。



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大丈夫ではない。



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連絡も返していない。



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上司からの着信も無視したまま。



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でも、


今さらそれを認めると、


全部が現実になる気がする。



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「……まあ、なんとか」



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その言葉が出る。



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また“なんとか”。



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今まで何度も使ってきた言葉。



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そして何度も、


問題を先送りしてきた言葉。



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「ほら、相沢は真面目だから大丈夫だろ」


隆が笑う。



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“真面目”



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その言葉が妙に苦しい。



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本当に真面目なら、


今ここにはいない。



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店に入る。



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また同じような空気。



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また同じような匂い。



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また同じような笑い声。



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席に座ると、


もう自然にグラスが並ぶ。



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誰も確認しない。



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誰も止めない。



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飲むことが前提。



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相沢はその光景をぼんやり見ている。



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ここにいる限り、


ずっと同じことを繰り返す気がした。



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夜になる。



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飲む。



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帰れない。



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朝になる。



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また集まる。



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その繰り返し。



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出口のない輪。



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スマホがまた震える。



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会社。



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相沢は画面を見たまま止まる。



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出なければいけない。



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でも、


今さら出ても遅い気がする。



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遅れた現実ほど、


怖いものはない。



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「出ないの?」


健が笑う。



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「もう怒られてるだろ」



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笑い声。



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相沢も少しだけ笑う。



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笑うしかない。



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もう正常な判断が、


どこにあるのか分からなくなっていた。



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そしてまた、


夜が始まる。



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