第20話「正常な一日から外れた場所」
店に入った瞬間、相沢は一度だけまばたきをした。
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外はまだ昼のはずなのに、中に入るとまた“夜の延長”になる。
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照明が落ち着いている。
音が少し遠い。
時間の感覚が曖昧になる。
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「とりあえず頼むか」
健が当然のように言う。
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「まだいけるだろ」
隆が笑う。
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翔は椅子に深く座る。
直樹はメニューを見ている。
優斗は無言。
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相沢は座ったまま、動かない。
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体が重い。
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頭がぼんやりする。
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さすがに限界に近い感覚はある。
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でもその“限界”がどこなのか分からない。
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スマホが震える。
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会社からの連絡。
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『至急折り返し』
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短い文字が刺さる。
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相沢は画面を見たまま止まる。
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ここで出れば終わるかもしれない。
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でもその“終わる”は、
楽になる終わりではない。
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現実に戻る終わりだ。
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「相沢?」
健が気づく。
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「会社だろ?」
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「出とけよ」
翔が笑う。
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だが誰も強制はしない。
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むしろ軽い空気のまま流している。
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その方が怖い。
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相沢はスマホを伏せる。
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「後ででいい」
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その言葉が出た瞬間、
自分でも少し驚く。
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また同じ選択をしている。
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「ほらな」
隆が笑う。
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「結局こうなる」
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その言葉は責めではない。
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ただの確認。
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外では、
普通の午後が続いている。
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人が歩く。
車が流れる。
誰かが働いている。
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その中で、
自分たちだけが止まっている。
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いや、止まっているというより、
同じ場所を回り続けている。
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相沢はふと思う。
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“これ、いつからおかしいんだろう”
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でも答えは出ない。
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最初からなのかもしれない。
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グラスが置かれる。
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「乾杯な」
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その声でまた流れる。
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また同じ笑い。
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また同じ空気。
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そして相沢は、
少しだけ遅れてグラスを持つ。
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その動作に、
もう疑問は挟まれない。
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それが“いつもの席”だった。
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