第19話「壊れた時間感覚」
居酒屋を出た瞬間、相沢は一瞬だけ立ち止まる。
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外はまだ明るい。
それなのに、体の中だけはずっと夜のままだった。
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「次どうする?」
健が当然のように言う。
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その一言が、また流れを作る。
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相沢は答えないまま歩き出す。
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足取りは重い。
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頭の奥が鈍く痛い。
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“まだ続くのか”
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その思いだけが繰り返される。
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「カラオケ戻るか、それとも軽くもう一軒か」
隆が笑う。
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「どっちでもいいな」
翔が続ける。
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直樹はスマホを見ている。
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優斗は何も言わない。
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相沢は少し遅れてついていく。
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もう「選ぶ」という感覚がない。
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どれを選んでも、
結果は同じ気がしている。
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“断る”という行為だけが消えている。
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ふと、会社のことが頭に浮かぶ。
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朝の現場。
安全確認。
上司の顔。
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『飲んで来るなと言っただろ』
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その声が遠くで響く。
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でも今は、届かない。
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スマホが震える。
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上司からの連絡。
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『今どこにいる?』
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短い言葉。
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だが重い。
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相沢は画面を見たまま止まる。
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返すべきだ。
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でも返した瞬間、
すべてが崩れる気がする。
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「相沢、どうした?」
健が気づく。
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「会社」
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その一言で空気が少しだけ止まる。
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だがすぐに戻る。
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「あとでいいだろ」
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またその言葉。
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また“あとで”。
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その積み重ねで、
今日がここまで続いている。
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歩きながら、
相沢はふと思う。
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このまま行けば、
何時に終わるんだろう。
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でも誰も考えていない。
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終わりを考える役割は、
この中にはいない。
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気づけば、
また別の店の前にいる。
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昼でも夜でもない場所。
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境界が壊れている。
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「入るぞ」
隆が言う。
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誰も止めない。
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相沢も止められない。
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そしてまた、
同じような時間が始まる。
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もう“今日”という感覚は、
ほとんど残っていなかった。
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