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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第1章 「いつもの席」

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第19話「壊れた時間感覚」

居酒屋を出た瞬間、相沢は一瞬だけ立ち止まる。



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外はまだ明るい。


それなのに、体の中だけはずっと夜のままだった。



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「次どうする?」


健が当然のように言う。



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その一言が、また流れを作る。



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相沢は答えないまま歩き出す。



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足取りは重い。



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頭の奥が鈍く痛い。



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“まだ続くのか”



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その思いだけが繰り返される。



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「カラオケ戻るか、それとも軽くもう一軒か」


隆が笑う。



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「どっちでもいいな」


翔が続ける。



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直樹はスマホを見ている。



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優斗は何も言わない。



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相沢は少し遅れてついていく。



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もう「選ぶ」という感覚がない。



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どれを選んでも、


結果は同じ気がしている。



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“断る”という行為だけが消えている。



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ふと、会社のことが頭に浮かぶ。



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朝の現場。


安全確認。


上司の顔。



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『飲んで来るなと言っただろ』



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その声が遠くで響く。



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でも今は、届かない。



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スマホが震える。



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上司からの連絡。



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『今どこにいる?』



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短い言葉。



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だが重い。



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相沢は画面を見たまま止まる。



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返すべきだ。



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でも返した瞬間、


すべてが崩れる気がする。



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「相沢、どうした?」


健が気づく。



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「会社」



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その一言で空気が少しだけ止まる。



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だがすぐに戻る。



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「あとでいいだろ」



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またその言葉。



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また“あとで”。



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その積み重ねで、


今日がここまで続いている。



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歩きながら、


相沢はふと思う。



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このまま行けば、


何時に終わるんだろう。



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でも誰も考えていない。



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終わりを考える役割は、


この中にはいない。



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気づけば、


また別の店の前にいる。



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昼でも夜でもない場所。



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境界が壊れている。



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「入るぞ」


隆が言う。



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誰も止めない。



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相沢も止められない。



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そしてまた、


同じような時間が始まる。



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もう“今日”という感覚は、


ほとんど残っていなかった。



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