第18話「戻れない午後の延長線」
居酒屋の中は、昼なのに完全に夜の空気をしていた。
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照明が少し暗いせいで、時間の感覚がさらに曖昧になる。
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相沢はグラスを見ている。
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何杯目かはもう分からない。
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喉はすでに反応が鈍い。
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それでも、手は自然に持ち上がる。
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「相沢、今日元気ないな」
健が笑う。
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「いや、普通だろ」
翔が返す。
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「普通じゃねぇよ、朝からこれだぞ」
隆が笑う。
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“朝から”
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その言葉が少しだけ引っかかる。
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もう昼を超えているはずなのに、
感覚はまだ“朝の延長”だった。
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直樹はスマホを見ながら言う。
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「このあとどうする?」
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その問いは、
いつもと同じだった。
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帰るかどうかではない。
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“どこまで続けるか”だけ。
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相沢は少し黙る。
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頭が重い。
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判断が遅い。
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ここで帰ればいい。
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本来ならそれだけだ。
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でもその「本来」がもう遠い。
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「……少しだけなら」
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その言葉がまた出る。
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出てしまう。
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誰も止めない。
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むしろ安心したように笑う。
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「それでいいって」
健が言う。
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“それでいい”
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その言葉が積み重なって、
ここまで来た。
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スマホが震える。
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会社からの着信。
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今度はかなり長い。
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画面を見たまま止まる。
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出なければならない。
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でも出た瞬間、
この流れが崩れる気がする。
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相沢はスマホを伏せる。
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「誰から?」
直樹が聞く。
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「会社」
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一瞬だけ空気が変わる。
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だがすぐ戻る。
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「後ででいいだろ」
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その一言でまた流れる。
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また“後で”。
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その積み重ねが今の状態だ。
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店の外を見る。
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昼の光はまだ強い。
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なのに中は夜みたいに暗い。
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そのギャップが気持ち悪い。
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相沢はふと思う。
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“俺、今どこにいるんだろう”
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でも答えは出ない。
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そして誰も答えない。
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グラスがまた満たされる。
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「ほら、次いくぞ」
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その声でまた始まる。
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この午後は、
終わる気配がないまま続いていく。
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