第17話「午後という名の麻痺」
カフェを出た頃には、空の色は完全に“昼の後半”になっていた。
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時間は進んでいるのに、体感だけがずっと同じ場所にいる。
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「どうする? もう一回軽く行くか」
健が笑う。
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「まだ飲む前提なのかよ」
翔が苦笑する。
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「昼飯食ったし、ちょうどいいだろ」
隆が当然のように言う。
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直樹はスマホを見ながら何も言わない。
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優斗は相変わらず沈黙のまま歩いている。
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相沢はその会話の中心にいない。
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少し遅れて後ろを歩いている。
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頭の中がぼんやりしている。
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疲れなのか、酒なのか、睡眠不足なのか分からない。
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ただ一つだけ確かなのは、
判断が遅くなっていることだった。
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“普通ならここで終わる”
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その考えが何度も浮かぶ。
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でもそのたびに消える。
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終わりを決める側がいない。
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そして自分も決められない。
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気づけばまた店の前にいる。
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昼から開いている小さな居酒屋。
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暖簾が揺れている。
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「入るぞ」
隆が当然のように言う。
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相沢は一瞬だけ立ち止まる。
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ここまで来ると、
もう“断る理由”が言葉にならない。
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疲れている。
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眠い。
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明日は仕事。
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全部分かっている。
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でもその全部が、
もう効力を持っていない。
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「……ちょっとだけな」
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その言葉で中に入る。
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中は薄暗い。
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昼なのに夜の延長のような空間。
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座る。
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また注文が始まる。
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「とりあえずビールだろ」
健が笑う。
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相沢はグラスを見る。
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ここまで何杯飲んだのか、
もう分からない。
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それでもまた手が伸びる。
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“断らないこと”が癖になっている。
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スマホが震える。
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会社からの再通知。
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『至急連絡をください』
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文字が重い。
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相沢は画面を見つめる。
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その瞬間だけ、
現実が少し戻る。
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でもすぐにまた流される。
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「相沢、乾杯」
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その声で、
思考が切れる。
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グラスが重なる音。
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また同じ流れ。
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また同じ笑い。
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また同じ空気。
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相沢は小さく思う。
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“これ、いつまで続くんだ”
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でもその答えは、
もう誰にも分からない。
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そしてまた、
午後はゆっくり壊れていく。
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