第15話「昼を失った人間たち」
外に出た瞬間、時間が一気に現実へ引き戻された。
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太陽は完全に上がっている。
街は完全に“昼”の顔をしている。
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その中を、相沢たちはまだ夜のまま歩いている。
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「飯どうする?」
隆が当然のように言う。
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「もう昼だしな」
健が笑う。
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「軽くでいいだろ」
翔が眠そうに続ける。
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直樹はスマホで店を探している。
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優斗は相変わらず無言だ。
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相沢はその会話を少し遅れて聞いている。
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頭が重い。
視界が少し遅れて追従する。
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“昼飯”
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その言葉が現実的すぎて違和感がある。
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今の自分は、
夜を終えていない。
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いや、
終わったという感覚すらない。
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ただ流され続けているだけだ。
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「ここでいいだろ」
直樹が指したのはチェーンの定食屋だった。
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扉を開けると、冷房の風が当たる。
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その冷たさが妙に刺さる。
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席に座る。
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メニューを見る。
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文字が少し揺れている。
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「相沢、食える?」
健が笑う。
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「……あんまり」
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正直な感覚が漏れる。
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だが誰も気にしない。
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「じゃあ軽いやつな」
隆が勝手に決める。
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注文が通る。
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また“流れ”が決まる。
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相沢はふと気づく。
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自分はずっと「決めていない」。
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すべてが周りで決まっている。
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そしてそれに乗っているだけだ。
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料理が来る。
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食べる。
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味はあまりしない。
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胃が重い。
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でも残すとまた何か言われそうな気がして食べる。
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会話は続いている。
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競艇の結果。
次の予定。
金の話。
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“昨日からずっと同じ内容”
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相沢はそう思う。
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でも誰もそれを疑わない。
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むしろそれが安心なのかもしれない。
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スマホが震える。
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会社から再び着信。
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今度は上司。
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画面を見た瞬間、胃が少し縮む。
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出るべきかもしれない。
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でも今出たら、
この流れが壊れる気がする。
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相沢は机の下で手を止める。
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「どうした?」
直樹が聞く。
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「いや……会社から」
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一瞬、空気が止まる。
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だがすぐに戻る。
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「あとででいいだろ」
健が言う。
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「今は今だし」
隆が笑う。
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その一言で、
また判断が消える。
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相沢はスマホを伏せる。
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そして小さく息を吐く。
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“あとで”
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その言葉は、
今まで何度も使ってきた。
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でも「あとで」は、
ほとんど来なかった。
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料理を食べ終える。
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会計はまた誰かが雑に済ませる。
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外に出る。
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昼の光が強い。
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でも体の中はまだ夜のままだ。
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「次どうする?」
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またその言葉。
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相沢は空を見上げる。
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もう判断する力が、
かなり減っている。
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「……任せる」
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その一言でまた流れが決まる。
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そして彼らは、
まだ終わらない“今日”の中を歩き続ける。
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