表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第1章 「いつもの席」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/57

第13話「朝の中の夜」

競艇場の入口は、朝とは思えない熱気を帯びていた。



---


人のざわめき。


紙の音。


金属的なアナウンス。



---


ここだけ時間の流れが違うように見える。



---


相沢はその光景をぼんやり見ている。



---


頭は重い。


目は乾いている。


体の奥にまだ酒が残っている感覚がある。



---



---


「今日は勝てる気するわ」


健が笑う。



---


「根拠ねぇだろ」


翔が返す。



---


「こういう日はな、流れだよ」


隆が当然のように言う。



---


直樹はすでにレース表を見ている。



---


優斗は無言のまま後ろにいる。



---



---


相沢は一歩遅れて中に入る。



---


その瞬間、空気が変わる。



---


外の現実が切り離される感覚。



---


ここからは“別の時間”。



---



---


席に座る。



---


目の前ではレースの映像が流れている。



---


歓声。


ため息。


数字。



---


すべてが速い。



---



---


健が紙を叩く。



---


「これ絶対来るって」



---


「お前毎回それ言ってるな」


翔が笑う。



---



---


相沢は笑えない。



---


視界が少し揺れている。



---


眠気ではない。



---


判断が薄れている感覚。



---



---


“ここにいるべきじゃない”



---


頭の奥で声がする。



---


でも体は動かない。



---



---


「相沢もいくよな?」


隆が聞く。



---


その問いは優しさではない。



---


確認でもない。



---


ただの同調圧力。



---



---


相沢は一瞬だけ黙る。



---


財布の中身。


明日の現場。


会社の顔。



---


全部が浮かぶ。



---



---


それでも、


言葉は一つしか出ない。



---



---


「……まあ、少しだけ」



---



---


その瞬間、


周りが少しだけ安心する。



---



---


「よし」


「それでいい」


「相沢いると流れいいしな」



---



---


“流れ”



---


またその言葉。



---


自分の意思ではなく、


流れで動いている感覚。



---



---


レースが始まる。



---


歓声が上がる。



---


数字が動く。



---



---


相沢は画面を見ているが、


ほとんど頭に入っていない。



---



---


ただ一つだけ、


確かな感覚がある。



---



---


“このままじゃ帰れない”



---



---


いや、


正確には。



---



---


“帰るという発想が消えている”



---



---


時計を見る。



---


もう昼に近い。



---



---


普通なら仕事に向かう時間。



---


でもここでは、


まだ“夜の続き”のままだ。



---



---


相沢は息を吐く。



---


そして小さく笑う。



---



---


「……ほんと、やばいな」



---



---


その言葉は誰にも届かない。



---


レースの音にかき消される。



---



---


そしてまた、


次のレースが始まる。



---



---


終わるはずの朝は、


まだ終わっていなかった。



---

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ