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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第4章「帰る場所」

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第14話「許されない場所」

相沢は、


少しずつ新しい生活を作っていた。



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仕事。



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家族。



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交通安全活動。



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一年前の自分なら、


想像もできなかった日々。



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しかし、


ある日。



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その日常に、


一通の手紙が届いた。



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差出人。



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見知らぬ名前。



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相沢は封筒を見つめる。



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嫌な予感がした。



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恐る恐る開く。



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中には短い文章が書かれていた。



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『あなたの講習会の記事を読みました』



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『あなたが今、交通安全について話していることを知りました』



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相沢の手が止まる。



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次の文章。



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『私は、あなたの事故で亡くなった人の友人です』



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胸が締め付けられる。



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健。



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名前を見なくても分かった。



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『あなたが反省していることは分かります』



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『しかし、あなたが人前で話している姿を見ると、複雑な気持ちになります』



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相沢は静かに読む。



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『あなたは生きている』



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『健は帰ってこない』



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その言葉。



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何度も自分自身に投げかけた言葉だった。



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最後。



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『あなたは、許されたと思っていませんか』



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相沢は手紙を置く。



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胸が苦しい。



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怒りではなかった。



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当然の感情だと思った。



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自分が逆の立場なら、


同じことを思うかもしれない。



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夜。



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相沢は眠れなかった。



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机の上。



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三通の手紙。



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そして、


今日届いた手紙。



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「許された……」



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その言葉を考える。



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違う。



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自分は許されたと思ったことなどない。



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でも、


周囲から見れば、


そう見えるのかもしれない。



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仕事をして。



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笑って。



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人前で話している。



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それだけを見る人には、


反省している姿ではなく、


前向きに生きている姿に見える。



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しかし、


その裏には消えない夜がある。



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翌日。



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相沢は健の母親へ連絡した。



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「少し相談したいことがあります」



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待ち合わせ。



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以前と同じ喫茶店。



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健の母親は、


相沢の顔を見ると分かった。



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「何かあったのね」



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相沢は手紙を見せる。



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健の母親は静かに読む。



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読み終わる。



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しばらく沈黙。



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「……そうね」



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相沢は俯く。



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「やっぱり、俺は表に出るべきじゃないんでしょうか」



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「交通安全の話なんて」



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「自分がする資格なんて……」



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健の母親は首を振る。



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「違うと思う」



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相沢は顔を上げる。



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「許されることと」



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「償うことは違う」



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静かな声。



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「あなたは許されたから話しているの?」



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相沢は首を振る。



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「違います」



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「なら、それでいい」



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健の母親は続ける。



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「あなたが話すことで、誰かの未来が変わるかもしれない」



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「でも、それで健の死が軽くなるわけではない」



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「両方、本当なの」



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相沢は黙って聞く。



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「悲しむ人がいること」



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「怒る人がいること」



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「それを忘れないで」



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「でも、自分が生きることも忘れないで」



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帰り道。



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相沢は手紙を読み返す。



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以前なら、


自分を責めて終わっていた。



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しかし今は違う。



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この人の悲しみも、


自分の責任の一部だ。



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だから、


向き合う。



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逃げない。



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そして、


勝手に「許された」と思わない。



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それが大切なのだ。



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数日後。



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相沢は次の講習会へ向かった。



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壇上。



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いつものように話す。



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しかし、


最後に一つ言葉を加えた。



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「私は許された人間ではありません」



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会場が静まる。



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「今も、苦しんでいる人がいます」



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「私がしたことは消えません」



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「それでも」



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「二度と同じ悲しみを生まないために、伝え続けます」



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その言葉は、


以前より重かった。



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でも、


以前より真っ直ぐだった。



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帰り道。



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相沢は空を見る。



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健は戻らない。



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許しも、


簡単には得られない。



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それでも、


歩く。



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それが、


残された者の責任だから。



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第4章 第14話 完



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次回


第4章 第15話


「もう一度、向き合う」


相沢は健の友人と再会する。

事故の夜を知る者同士、初めて本音で語り合うことになる。

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