第13話「家族との再会」
日曜日の午後。
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相沢は庭の掃除をしていた。
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出所してから、
少しずつ家のことをするようになった。
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以前なら、
家族がやってくれていたこと。
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今は、
自分も家の一員として関わりたいと思っていた。
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落ち葉を集める。
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植木に水をやる。
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金木犀を見る。
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母親が言っていた。
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「今年も咲いたよ」
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その意味が、
今なら少し分かる気がした。
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変わらないものもある。
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失ったものだけではない。
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その時、
玄関のチャイムが鳴った。
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母親が出る。
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「……」
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少し驚いた声。
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相沢は振り返る。
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「誰?」
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母親は答える。
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「あなたの妹」
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相沢の手が止まる。
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妹。
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手紙では何度もやり取りした。
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でも、
直接会うのは出所してから初めてだった。
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玄関へ向かう。
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そこにいた。
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少し大人びた妹。
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最後に会った時より、
時間を重ねた顔。
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「……久しぶり」
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相沢は言う。
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妹は少し黙る。
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「うん」
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短い返事。
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以前のような、
自然な兄妹の会話ではない。
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当然だった。
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二人の間には、
事故の日からの時間がある。
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家に入る。
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居間。
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三人で座る。
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最初は誰も話さなかった。
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テレビの音だけが響く。
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相沢は思う。
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昔なら、
妹に何気なく話しかけていた。
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学校のこと。
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仕事のこと。
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くだらない話。
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でも今は、
その距離が分からない。
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妹が口を開く。
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「仕事、どう?」
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相沢は少し驚く。
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「順調とは言えないけど」
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「続けてる」
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妹は頷く。
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「良かった」
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その一言。
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相沢は俯く。
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「ごめん」
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自然に出た言葉。
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妹の表情が少し変わる。
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「お兄ちゃん」
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「もう、それ何回目?」
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相沢は黙る。
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妹は続ける。
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「謝るなって言ってるんじゃない」
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「でも……」
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「私たちが欲しいのは、ずっと謝っているお兄ちゃんじゃない」
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相沢は顔を上げる。
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「生きているお兄ちゃん」
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その言葉。
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胸に響く。
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「昔みたいには戻れない」
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妹は言う。
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「それは分かってる」
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「健さんのことも」
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「事故のことも」
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「なかったことにはできない」
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静かな声。
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「でも、新しく関係を作ることはできると思う」
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相沢は手を握る。
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刑務所で読んだ手紙。
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同じ言葉だった。
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戻るのではなく、
作り直す。
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夕方。
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妹が帰る時間。
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玄関。
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相沢は少し迷う。
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昔なら、
「また来いよ」
と言えた。
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今は、
その一言すら怖い。
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「……また」
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妹を見る。
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「来てもいい?」
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妹が少し笑う。
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「私が聞こうと思ってた」
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その笑顔。
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久しぶりに見る、
妹らしい笑顔だった。
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「じゃあ、また来る」
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扉が閉まる。
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相沢はしばらく玄関に立っていた。
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母親が言う。
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「少しずつでいいね」
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相沢は頷く。
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家族。
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完全に元通りではない。
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失った時間は戻らない。
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でも、
新しい時間は作れる。
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その夜。
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相沢は手紙を書く。
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宛先はない。
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健へ。
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『今日、妹と話した』
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『まだ全部元通りじゃない』
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『でも、少しずつ進んでいる』
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『俺はこれからも忘れない』
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『でも、止まらない』
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書き終えた手紙を、
机の引き出しにしまう。
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過去への手紙。
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そして、
未来への約束だった。
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第4章 第13話 完
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次回
第4章 第14話
「許されない場所」
相沢の交通安全活動が広がる一方、被害者遺族の中には複雑な感情を抱く者もいた。
「償い」と「許し」の違いに向き合うことになる。




