第12話「新しい役割」
交通安全講習会から一週間。
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相沢の生活に、
少しだけ変化が起きていた。
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会社では、
以前より話しかけられることが増えた。
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もちろん、
全員が過去を受け入れたわけではない。
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距離を置く人もいる。
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しかし、
相沢自身が変わった。
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以前のように、
「嫌われているかもしれない」
という恐怖だけで人を見ることが減った。
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人にはそれぞれ、
考える時間が必要なのだ。
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それを少し理解できるようになっていた。
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ある日の昼休み。
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上司が相沢を呼んだ。
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「少し話がある」
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会議室。
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相沢は緊張する。
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「仕事で何か問題が?」
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上司は首を振る。
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「違う」
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机の上に一枚の書類を置く。
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そこには、
地域の交通安全活動について書かれていた。
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「先日の講習会」
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「評判が良かった」
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相沢は驚く。
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「自分がですか」
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「そうだ」
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上司は続ける。
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「経験した人間の言葉は、届く人がいる」
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相沢は黙る。
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褒められている。
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そのはずなのに、
胸の奥には複雑な感情があった。
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「でも……」
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相沢は言う。
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「自分は事故を起こした側です」
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「そんな人間が、交通安全を語っていいんでしょうか」
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上司はしばらく考えた。
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そして言った。
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「相沢」
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「失敗したことがない人間だけが、人に注意できると思うか?」
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相沢は顔を上げる。
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「危険を知らない人間より」
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「危険を知っている人間の方が伝えられることもある」
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その言葉。
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相沢はすぐには答えられなかった。
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帰宅後。
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部屋。
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机の上には、
いつもの三通の手紙。
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母親。
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妹。
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健の母親。
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相沢は健の母親からの手紙を開く。
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『あなたが生きることを、苦しむだけの時間にしないでください』
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何度も読んだ文章。
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今なら少し分かる。
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償いとは、
自分を傷つけ続けることではない。
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失ったものを忘れずに、
残された時間をどう使うか。
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それなのかもしれない。
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数日後。
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相沢は再び講習会へ向かった。
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今度は、
前回より少し落ち着いていた。
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会場には、
高校生だけではなく、
地域の人たちもいた。
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壇上に立つ。
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「私は、立派な人間ではありません」
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最初にそう言った。
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「間違えました」
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「取り返せないことをしました」
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「だからこそ、伝えたいことがあります」
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会場は静かだった。
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「その場の空気に流されないでください」
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「友達だから」
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「断りにくいから」
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「みんなやっているから」
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「その一言で、大切な人の未来を奪うことがあります」
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話し終えた後。
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一人の女性が近づいてきた。
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年配の女性だった。
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「ありがとう」
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相沢は戸惑う。
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「……ありがとうございます?」
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女性は頷く。
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「うちの孫が免許を取るんです」
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「今日の話、聞かせたいと思いました」
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その言葉。
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相沢の胸に残った。
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帰り道。
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夕暮れの街。
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相沢は歩きながら考える。
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自分の過去は消えない。
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名前を変えることもできない。
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一生背負うものだ。
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でも、
その重さを誰かのために使うことはできる。
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家に帰る。
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玄関を開ける。
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「ただいま」
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母親の声。
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「おかえり」
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その言葉が、
以前より自然に聞こえた。
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相沢は部屋へ入り、
社員証の横に新しい紙を置く。
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交通安全活動の参加証。
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刑務所の記録ではない。
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これから作る人生の記録。
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相沢は静かに思う。
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「俺は、ここから何を残せるだろう」
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その答えを探すために、
明日も歩く。
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第4章 第12話 完
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次回
第4章 第13話
「家族との再会」
妹が久しぶりに家を訪れる。
離れていた時間を埋めるのではなく、新しい家族の形を作るための一歩が始まる。




