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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第4章「帰る場所」

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第12話「新しい役割」

交通安全講習会から一週間。



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相沢の生活に、


少しだけ変化が起きていた。



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会社では、


以前より話しかけられることが増えた。



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もちろん、


全員が過去を受け入れたわけではない。



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距離を置く人もいる。



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しかし、


相沢自身が変わった。



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以前のように、


「嫌われているかもしれない」


という恐怖だけで人を見ることが減った。



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人にはそれぞれ、


考える時間が必要なのだ。



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それを少し理解できるようになっていた。



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ある日の昼休み。



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上司が相沢を呼んだ。



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「少し話がある」



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会議室。



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相沢は緊張する。



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「仕事で何か問題が?」



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上司は首を振る。



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「違う」



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机の上に一枚の書類を置く。



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そこには、


地域の交通安全活動について書かれていた。



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「先日の講習会」



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「評判が良かった」



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相沢は驚く。



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「自分がですか」



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「そうだ」



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上司は続ける。



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「経験した人間の言葉は、届く人がいる」



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相沢は黙る。



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褒められている。



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そのはずなのに、


胸の奥には複雑な感情があった。



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「でも……」



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相沢は言う。



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「自分は事故を起こした側です」



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「そんな人間が、交通安全を語っていいんでしょうか」



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上司はしばらく考えた。



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そして言った。



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「相沢」



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「失敗したことがない人間だけが、人に注意できると思うか?」



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相沢は顔を上げる。



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「危険を知らない人間より」



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「危険を知っている人間の方が伝えられることもある」



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その言葉。



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相沢はすぐには答えられなかった。



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帰宅後。



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部屋。



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机の上には、


いつもの三通の手紙。



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母親。



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妹。



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健の母親。



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相沢は健の母親からの手紙を開く。



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『あなたが生きることを、苦しむだけの時間にしないでください』



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何度も読んだ文章。



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今なら少し分かる。



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償いとは、


自分を傷つけ続けることではない。



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失ったものを忘れずに、


残された時間をどう使うか。



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それなのかもしれない。



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数日後。



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相沢は再び講習会へ向かった。



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今度は、


前回より少し落ち着いていた。



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会場には、


高校生だけではなく、


地域の人たちもいた。



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壇上に立つ。



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「私は、立派な人間ではありません」



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最初にそう言った。



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「間違えました」



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「取り返せないことをしました」



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「だからこそ、伝えたいことがあります」



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会場は静かだった。



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「その場の空気に流されないでください」



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「友達だから」



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「断りにくいから」



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「みんなやっているから」



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「その一言で、大切な人の未来を奪うことがあります」



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話し終えた後。



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一人の女性が近づいてきた。



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年配の女性だった。



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「ありがとう」



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相沢は戸惑う。



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「……ありがとうございます?」



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女性は頷く。



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「うちの孫が免許を取るんです」



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「今日の話、聞かせたいと思いました」



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その言葉。



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相沢の胸に残った。



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帰り道。



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夕暮れの街。



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相沢は歩きながら考える。



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自分の過去は消えない。



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名前を変えることもできない。



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一生背負うものだ。



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でも、


その重さを誰かのために使うことはできる。



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家に帰る。



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玄関を開ける。



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「ただいま」



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母親の声。



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「おかえり」



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その言葉が、


以前より自然に聞こえた。



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相沢は部屋へ入り、


社員証の横に新しい紙を置く。



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交通安全活動の参加証。



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刑務所の記録ではない。



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これから作る人生の記録。



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相沢は静かに思う。



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「俺は、ここから何を残せるだろう」



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その答えを探すために、


明日も歩く。



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第4章 第12話 完



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次回


第4章 第13話


「家族との再会」


妹が久しぶりに家を訪れる。

離れていた時間を埋めるのではなく、新しい家族の形を作るための一歩が始まる。

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