表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第4章「帰る場所」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
117/123

第9話「健の母親」

休日。



---


相沢は朝から部屋に座っていた。



---



---


机の上。



---



---


一通の手紙。



---



---


健の母親から届いたものだった。



---



---


刑務所にいた頃。



---



---


何度も読み返した。



---



---


何度も救われた。



---



---


そして、


何度も苦しくなった。



---



---


『あなたにも生きてほしいと思います』



---



---


その言葉。



---



---


優しさだった。



---



---


しかし、


相沢には重かった。



---



---


なぜなら、


自分は生きている。



---



---


その一方で、


健はもういない。



---



---


その事実は変わらない。



---



---


相沢は封筒を見る。



---



---


住所。



---



---


健の母親の家。



---



---


出所してから、


一度も会っていなかった。



---



---


怖かった。



---



---


拒絶されるかもしれない。



---



---


責められるかもしれない。



---



---


当然だと思っていた。



---



---


それでも、


会わなければならない気がした。



---



---


相沢は電話をかける。



---



---


数回の呼び出し。



---



---


「はい」



---



---


聞き慣れた声。



---



---


胸が締め付けられる。



---



---


「……相沢です」



---



---


沈黙。



---



---


数秒。



---



---


「久しぶりね」



---



---


その声には、


怒りも驚きもなかった。



---



---


ただ、


静かな疲れがあった。



---



---


「会っていただけませんか」



---



---


相沢は言う。



---



---


「直接、謝りたいです」



---



---


電話の向こう。



---



---


長い沈黙。



---



---


「分かった」



---



---


短い返事だった。



---



---


待ち合わせ場所。



---



---


小さな喫茶店。



---



---


相沢は先に着いていた。



---



---


落ち着かない。



---



---


何度も時計を見る。



---



---


そして、


扉が開く。



---



---


健の母親が入ってくる。



---



---


以前より、


少し小さく見えた。



---



---


「お久しぶりです」



---



---


相沢は立ち上がり、


深く頭を下げる。



---



---


「申し訳ありませんでした」



---



---


「本当に……」



---



---


言葉が詰まる。



---



---


何度も言った謝罪。



---



---


でも、


どれだけ言っても足りない。



---



---


健の母親は、


しばらく黙っていた。



---



---


そして、


静かに言う。



---



---


「顔を上げて」



---



---


相沢はゆっくり顔を上げる。



---



---


「あなたが謝り続けても」



---



---


「健は帰ってこない」



---



---


その言葉。



---



---


胸に刺さる。



---



---


「分かっています」



---



---


「でも……」



---



---


健の母親は首を振る。



---



---


「私も最初はね」



---



---


「あなたを憎んでいた」



---



---


相沢は黙る。



---



---


「どうして息子じゃなくて、あなたが生きているんだろうって」



---



---


「何度も思った」



---



---


涙が落ちる。



---



---


「それは今でも完全には消えていない」



---



---


相沢は俯く。



---



---


「はい」



---



---


「でもね」



---



---


健の母親は続ける。



---



---


「あなたが刑務所で書いた手紙」



---



---


「何度も読みました」



---



---


相沢は驚く。



---



---


「息子のことを忘れていなかった」



---



---


「それだけは分かった」



---



---


相沢の目から涙が落ちる。



---



---


「許してもらおうとは思っていません」



---



---


「許される資格があるとも思っていません」



---



---


「ただ……」



---



---


「健が生きられなかった分まで、無駄にしたくないんです」



---



---


健の母親は窓の外を見る。



---



---


しばらくして、


小さく言う。



---



---


「相沢さん」



---



---


「あなたはこれから何年生きるか分からない」



---



---


「でも」



---



---


「毎日、健のことを忘れないで」



---



---


「そして」



---



---


「自分を壊すことを償いだと思わないで」



---



---


相沢は顔を上げる。



---



---


「……え?」



---



---


「苦しみ続けるだけでは、健は喜ばないと思う」



---



---


その言葉。



---



---


刑務所の中で聞いた言葉とは違う。



---



---


でも、


同じ方向を向いていた。



---



---


生きること。



---



---


逃げないこと。



---



---


誰かの未来を守ること。



---



---


「仕事、始めたんですってね」



---



---


相沢は頷く。



---



---


「はい」



---



---


「大変です」



---



---


健の母親は少し笑う。



---



---


「そうでしょうね」



---



---


「でも、それでいいと思う」



---



---


店を出る。



---



---


別れ際。



---



---


相沢はもう一度頭を下げる。



---



---


「ありがとうございました」



---



---


健の母親は言う。



---



---


「また、生きている姿を見せてください」



---



---


その言葉に、


相沢は顔を上げる。



---



---


それは、


許しではなかった。



---



---


でも、


拒絶でもなかった。



---



---


帰り道。



---



---


空を見上げる。



---



---


健の顔を思い出す。



---



---


「俺、まだ終われないな」



---



---


小さく呟く。



---



---


失った命を戻すことはできない。



---



---


過去を消すこともできない。



---



---


それでも、


これからの時間をどう使うかは、


自分で選べる。



---



---


相沢は歩き出す。



---



---


少しだけ、


前より背筋を伸ばして。



---


第4章 第9話 完



---


次回


第4章 第10話


「新しい日常」


仕事、家族、償い。

少しずつ生活を取り戻す相沢の前に、新たな試練が訪れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ