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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第4章「帰る場所」

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第4話「最初の面接」

出所してから三週間。



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相沢は、


ようやく一つの会社から面接の連絡をもらった。



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小さな物流会社。



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従業員は多くない。



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求人票には、


「経験不問」


と書かれていた。



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その言葉だけが、


相沢には救いに見えた。



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前日の夜。



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相沢は何度も服を確認した。



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スーツ。



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ネクタイ。



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靴。



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刑務所へ入る前、


当たり前だったこと。



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しかし、


今は一つ一つが不安だった。



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鏡を見る。



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少し痩せた顔。



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年齢以上に疲れて見える。



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相沢は小さく息を吐く。



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「大丈夫」



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誰に言うでもなく呟いた。



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翌朝。



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会社の前に立つ。



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建物は普通だった。



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特別大きくもない。



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有名でもない。



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でも、


相沢にとっては大きな壁だった。



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受付で名前を伝える。



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待合室。



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時計の音が響く。



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数分。



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その数分が、


何時間にも感じる。



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「相沢さん」



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呼ばれる。



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面接室。



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机の向こうには、


男性社員が二人。



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最初は普通の質問だった。



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「以前のお仕事は?」



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「営業です」



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「得意だったことは?」



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「人と話すことです」



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「なぜ退職されたのですか?」



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その質問。



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相沢の手が少し固まる。



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来た。



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避けられない質問。



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以前なら、


嘘をついたかもしれない。



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しかし、


もう決めていた。



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「刑務所にいました」



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部屋の空気が変わる。



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「……理由を聞いても?」



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相沢はゆっくり話す。



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「飲酒運転による事故です」



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「友人が亡くなりました」



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沈黙。



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時計の音だけが聞こえる。



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面接官の一人が資料を見る。



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「反省されていますか」



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相沢は答える。



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「はい」



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少し間を置く。



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「でも、反省していると言うだけでは足りないと思っています」



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「自分がしたことは消えません」



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「だから、これからの人生で向き合い続けるしかないと思っています」



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面接官は黙って聞いていた。



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しばらくして、


一人が言う。



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「正直に話してくれたことは分かりました」



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「ただ……」



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その後の言葉を、


相沢は覚悟していた。



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「社内で相談する時間をください」



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不採用とは言わなかった。



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でも、


歓迎でもなかった。



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面接が終わる。



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会社を出る。



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空は晴れていた。



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だが、


胸の中は複雑だった。



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昔なら、


落ち込んで終わっていた。



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「やっぱり無理だ」



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そう思っただろう。



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しかし今は違う。



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結果は怖い。



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それでも、


逃げずに話した。



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それだけは、


自分で認めてもいい気がした。



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帰宅。



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母親が聞く。



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「どうだった?」



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相沢は少し考える。



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「分からない」



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「でも……」



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一度言葉を止める。



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「ちゃんと話せた」



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母親は頷く。



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「それでいいと思う」



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その言葉に、


相沢は少し驚く。



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採用されることだけが、


前に進むことではない。



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逃げずに向き合えたこと。



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それも一つの前進だった。



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夜。



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相沢は机に向かう。



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履歴書の控えを見る。



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そこには、


空白の五年間。



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消えない時間。



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でも、


その時間も含めて、


今の自分なのだ。



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翌日。



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電話が鳴る。



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母親が取る。



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「相沢さんにお電話です」



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相沢は受話器を見る。



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心臓が少し速くなる。



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良い知らせか。



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それとも……。



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相沢はゆっくり受話器を取った。



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第4章 第4話 完



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次回


第4章 第5話


「採用通知」


一つの会社が出した答え。

相沢は社会に戻る第一歩を踏み出す。しかし、職場には過去を知らない人たちもいる。

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