表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
108/123

第53話「出所前夜」

二月。



---


出所まで、


あと一日。



---



---


朝の号令で目を覚ました相沢は、


いつものように布団を畳んだ。



---



---



---


だが、


「いつものように」という言葉が、


今日ほど不思議に感じた日はなかった。



---



---



---


明日になれば、


この房で目を覚ますことはない。



---



---



---


毎日見ていた白い壁。



---



---



---


小さな棚。



---



---



---


擦り切れた畳。



---



---



---


初めてここへ入った日は、


狭く、冷たく、息苦しい場所だと思った。



---



---



---


しかし、


いつしか生活の一部になっていた。



---



---



---


人は、


どんな場所にも慣れてしまう。



---



---



---


午前。



---



---



---


最後の作業日。



---



---



---


工具を片付ける手にも、


どこか力が入らない。



---



---



---


職員が言う。



---



---



---


「今日で終了だ」



---



---



---


その一言で、


本当に終わるのだと実感する。



---



---



---


昼休み。



---



---



---


食堂で食べる最後の昼食。



---



---



---


味噌汁。



---



---


白飯。



---



---


焼き魚。



---



---



---


特別な献立ではない。



---



---



---


だが、


これも今日で最後になる。



---



---



---


食器を返す時、


思わず振り返った。



---



---



---


毎日見ていた景色。



---



---



---


二度と戻りたくない。



---



---



---


それでも、


忘れることはないだろう。



---



---



---


午後。



---



---



---


荷物の確認。



---



---



---


持ち込んだ物。



---



---



---


手紙。



---



---



---


母親から。



---



---


妹から。



---



---


健の母親から。



---



---



---


この三通だけは、


何より大切な荷物になっていた。



---



---



---


夕方。



---



---



---


房へ戻る。



---



---



---


長期刑の男が、


静かに座っていた。



---



---



---


相沢は近づく。



---



---



---


「お世話になりました」



---



---



---


男は顔を上げる。



---



---



---


少し笑って言う。



---



---



---


「礼なんかいい」



---



---



---


「その代わり約束しろ」



---



---



---


相沢は黙って聞く。



---



---



---


男はゆっくりと言葉を選ぶ。



---



---



---


「二度と戻ってくるな」



---



---



---


「ここは一回来るだけで十分だ」



---



---



---


相沢は深く頷く。



---



---



---


「はい」



---



---



---


男は続ける。



---



---



---


「外は冷たいぞ」



---



---



---


「嫌なことも山ほどある」



---



---



---


「それでも生きろ」



---



---



---


「お前にはそう言ってくれた人がいるんだから」



---



---



---


健の母親の手紙。



---



---



---


相沢は静かに目を伏せる。



---



---



---


「あの言葉を無駄にするな」



---



---



---


その一言が、


胸の奥深くまで届いた。



---



---



---


消灯前。



---



---



---


職員が最後の点呼を終える。



---



---



---


明日の朝、


相沢はこの房を出る。



---



---



---


夜。



---



---



---


眠れない。



---



---



---


初めて収監された夜も眠れなかった。



---



---



---


そして今日も眠れない。



---



---



---


だが、


あの日とは理由が違う。



---



---



---


あの日は、


絶望だった。



---



---



---


今日は、


不安と希望が入り混じっている。



---



---



---


相沢はゆっくりと立ち上がる。



---



---



---


小さな窓から夜空を見る。



---



---



---


星が一つだけ見えた。



---



---



---


「健……」



---



---



---


事故以来初めて、


友人の名前を口にした。



---



---



---


「俺、行くよ」



---



---



---


返事はない。



---



---



---


それでも、


どこかで聞いていてほしいと思った。



---



---



---


布団へ戻る。



---



---



---


明日から、


加害者として生きる人生が始まる。



---



---



---


罪は消えない。



---



---



---


後悔も消えない。



---



---



---


それでも、


生きるしかない。



---



---



---


健の母親が願ったように。



---



---



---


家族が待ってくれているように。



---



---



---


そして自分自身が、


少しでも償い続けるために。



---



---



---


夜は静かに更けていった。



---



---


第3章・完


次章「第4章 帰る場所」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ