表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
106/123

第51話「白い朝」

年が明けた。



---


一月。



---



---


相沢が目を覚ました時、


房の空気はいつもと少し違っていた。



---



---



---


静かだった。



---



---



---


そして冷たい。



---



---



---


起床の号令。



---



---



---


布団から出る。



---



---



---


床の冷たさが足に伝わる。



---



---



---


冬の朝だった。



---



---



---


整列のため廊下へ出る。



---



---



---


その時、


窓の向こうが白いことに気づく。



---



---



---


雪だった。



---



---



---


この冬初めての雪。



---



---



---


庭。



---



---


屋根。



---



---


木々。



---



---



---


すべてが薄く白くなっている。



---



---



---


相沢は思わず足を止める。



---



---



---


職員に注意される寸前だった。



---



---



---


だが、


それほど久しぶりの感覚だった。



---



---



---


雪を見て、


綺麗だと思った。



---



---



---


事故以来、


そんな感情はほとんどなかった。



---



---



---


午前作業。



---



---



---


皆どこか落ち着かない。



---



---



---


雪の日はそういうものだ。



---



---



---


普段と違う。



---



---



---


少しだけ世界が変わる。



---



---



---


長期刑の男が窓を見る。



---



---



---


「降ったな」



---



---



---


相沢は頷く。



---



---



---


男は少し笑う。



---



---



---


「今年も見れた」



---



---



---


その言葉が残る。



---



---



---


今年も見れた。



---



---



---


昔なら当たり前だった。



---



---



---


だがここでは違う。



---



---



---


来年見られる保証はない。



---



---



---


誰にも。



---



---



---


だから一回一回が重い。



---



---



---


昼休み。



---



---



---


テレビでは各地の積雪情報が流れている。



---



---



---


スキー場。



---



---


高速道路。



---



---


雪景色。



---



---



---


外の世界も白くなっていた。



---



---



---


相沢はふと思う。



---



---



---


今頃、


家の庭も雪が積もっているだろうか。



---



---



---


母親は朝から雪かきをしているかもしれない。



---



---



---


妹は写真を撮っているかもしれない。



---



---



---


そんな想像が自然にできる。



---



---



---


それが少し嬉しかった。



---



---



---


午後。



---



---



---


作業が終わる頃、


雪はさらに強くなっていた。



---



---



---


白い粒が風に流されていく。



---



---



---


相沢は窓越しに眺める。



---



---



---


事故の日のことを思い出す。



---



---



---


あの日も寒かった。



---



---



---


だが雪はなかった。



---



---



---


もし雪だったら。



---



---



---


もし天気が違ったら。



---



---



---


そんな考えが一瞬浮かぶ。



---



---



---


しかし、


すぐに消える。



---



---



---


もう分かっている。



---



---



---


人生は「もし」で変わらない。



---



---



---


変えられるのは、


これからだけだ。



---



---



---


夕方。



---



---



---


房へ戻る。



---



---



---


窓の外は白い世界。



---



---



---


静かだった。



---



---



---


雪には音を消す力がある。



---



---



---


その静けさの中で、


相沢は久しぶりに健のことを考える。



---



---



---


だが、


以前とは違った。



---



---



---


苦しみだけではない。



---



---



---


楽しかった記憶も思い出せた。



---



---



---


笑っていた顔。



---



---


くだらない会話。



---



---


仕事帰りの時間。



---



---



---


事故だけではない。



---



---



---


生きていた時間もある。



---



---



---


それに気づく。



---



---



---


夜。



---



---



---


消灯。



---



---



---


外では雪が降り続いている。



---



---



---


相沢は布団の中で目を閉じる。



---



---



---


白い朝だった。



---



---



---


何かが解決したわけではない。



---



---



---


罪も消えていない。



---



---



---


未来もまだ曖昧だ。



---



---



---


それでも、


今日の雪は少しだけ違って見えた。



---



---



---


冬の景色ではなく、


長い夜の向こう側を思わせる景色として。



---



---



---


そして相沢は、


静かな雪の音なき夜の中で眠りについた。



---



---


※第52話「審査結果」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ