表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
102/123

第47話「健の母親」


十一月。



---


冷たい雨の日だった。



---



---


空は朝から曇っている。



---



---



---


施設全体が、


どこか沈んだ色をしていた。



---



---



---


相沢は午前作業を終え、


昼食へ向かう列に並んでいた。



---



---



---


その時だった。



---



---



---


職員が近づいてくる。



---



---



---


「302」



---



---



---


相沢は振り向く。



---



---



---


職員は短く言った。



---



---



---


「面談室へ」



---



---



---


その声はいつも通りだった。



---



---



---


だが、


なぜか胸騒ぎがした。



---



---



---


面談室。



---



---



---


机の向こうに、


見慣れない職員が座っていた。



---



---



---


そして、


一枚の封筒。



---



---



---


差出人は書かれていない。



---



---



---


職員が言う。



---



---



---


「外部からの手紙だ」



---



---



---


相沢は受け取る。



---



---



---


妙な重みがあった。



---



---



---


房へ戻る。



---



---



---


封筒を見つめる。



---



---



---


嫌な予感がした。



---



---



---


それでも開ける。



---



---



---


中には便箋が二枚。



---



---



---


最初の一行を読んだ瞬間、


相沢の身体が固まった。



---



---



---


「相沢さんへ」



---



---



---


「私は健の母です」



---



---



---


世界が静かになる。



---



---



---


しばらく文字が読めなかった。



---



---



---


心臓だけが大きく鳴っている。



---



---



---


手が震える。



---



---



---


事故以来、


一度も接触はなかった。



---



---



---


当然だった。



---



---



---


会う資格などない。



---



---



---


謝罪しても、


失われた命は戻らない。



---



---



---


それでも、


今ここに手紙がある。



---



---



---


続きを読む。



---



---



---


「この手紙を書くまで長い時間がかかりました」



---



---



---


「何度も破り捨てました」



---



---



---


「何を書けばいいのか分からなかったからです」



---



---



---


相沢は目を閉じる。



---



---



---


その気持ちは理解できた。



---



---



---


自分も妹への返事を書く時、


同じだった。



---



---



---


だが、


健の母親の苦しみは比べものにならない。



---



---



---


読み進める。



---



---



---


「最初はあなたを憎みました」



---



---



---


「今も完全に消えたわけではありません」



---



---



---


その文章に、


むしろ少し救われる。



---



---



---


正直だった。



---



---



---


綺麗事ではない。



---



---



---


当然の感情だった。



---



---



---


さらに続く。



---



---



---


「でも最近、考えることがあります」



---



---



---


「健が生きていたら何と言っただろうと」



---



---



---


相沢は息を止める。



---



---



---


便箋を持つ手が強く震える。



---



---



---


「たぶんあの子は」



---



---



---


「自分だけを被害者にするなと怒る気がします」



---



---



---


「自分も間違っていたのだからと」



---



---



---


相沢は読めなくなる。



---



---



---


視界が滲む。



---



---



---


健の顔が浮かぶ。



---



---



---


笑っていた顔。



---



---



---


事故の直前の顔。



---



---



---


最後の方には、


短い言葉があった。



---



---



---


「私はあなたを許せません」



---



---



---


「でも、あなたにも生きてほしいと思います」



---



---



---


相沢はその一文を何度も読む。



---



---



---


許さない。



---



---



---


生きてほしい。



---



---



---


矛盾している。



---



---



---


だが、


人間の感情は元々そういうものなのだろう。



---



---



---


夜。



---



---



---


消灯。



---



---



---


相沢は眠れなかった。



---



---



---


妹の手紙とは違う。



---



---



---


母親の面会とも違う。



---



---



---


これは、


事故そのものと向き合う手紙だった。



---



---



---


許されない。



---



---



---


その事実は変わらない。



---



---



---


だが、


それでも生きろと言われた。



---



---



---


それは許しよりも重い言葉だった。



---



---



---


暗闇の中、


相沢は初めて声を殺して泣いた。



---



---



---


事故以来、


ずっと避け続けていた涙だった。



---



---



---


そしてその夜、


相沢は初めて、


「自分は生き残ってしまった人間なのだ」と真正面から認めたのだった。



---



---


※第48話「返せない手紙」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ