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『残響の夜に、断れなかった』  作者: こうた
第3章 「収監された朝」

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第46話 「長い冬の入口」

十月。



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朝の空気は、


もうはっきりと冷たかった。



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施設の中でも、


季節の変化は分かる。



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吐く息。



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水の冷たさ。



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日の短さ。



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それらが、


静かに冬の接近を知らせていた。



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相沢は最近、


少しだけ変わっていた。



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以前のように、


一日中過去ばかりを考える時間が減った。



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消えたわけではない。



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事故のことも、


健のことも、


今でも夢に出る。



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だが、


それだけではなくなった。



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妹の手紙。



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母親の面会。



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未来のことを考える時間が、


ほんの少し増えた。



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午前作業。



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長期刑の男が珍しく話しかけてきた。



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「最近顔が変わったな」



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相沢は手を止める。



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「そうですか?」



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男は頷く。



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「前は死んだ顔してた」



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あまりにも率直だった。



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相沢は少し苦笑する。



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男は続ける。



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「今も明るくはねえけどな」



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「少しだけ外を見始めた顔してる」



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外。



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その言葉に、


相沢は黙る。



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昔なら怖かった。



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だが最近は、


怖さだけではなくなっていた。



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昼休み。



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テレビでは紅葉の映像が流れていた。



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山。



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川。



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観光地。



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秋の風景。



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画面の中の人々は笑っている。



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以前なら、


それを見て遠さだけを感じた。



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だが今日は違った。



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「いつか見られるかもしれない」



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そんな考えが、


ほんの一瞬だけ浮かんだ。



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午後。



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作業場の窓から、


風に揺れる木が見えた。



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葉の色が変わっている。



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時間は止まらない。



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そして、


自分も完全には止まっていない。



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夕方。



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房へ戻る。



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机の引き出しには、


母親と妹の手紙が入っている。



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相沢はそれを取り出す。



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何度も読んだ紙。



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少し折り目がついている。



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そこには、


許しは書かれていない。



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だが、


繋がりは残っている。



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その事実が、


少しだけ心を支えていた。



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夜。



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消灯。



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暗闇。



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外では冬が近づいている。



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長い夜が始まる。



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相沢は静かに思う。



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人生にも季節があるなら、


今はまだ冬の入口なのだろう。



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寒さはこれからだ。



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苦しさも終わっていない。



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だが、


冬には冬の終わりがある。



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そのことを、


少しだけ信じてみたいと思った。



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そして相沢は、


収監されてから初めて、


未来を想像しながら眠りについた。



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