第九話
その夜、私は自室のウィンドウシートに座り、見えもしない外に目を向ける。
「頭の中を整理しないと・・・」
ゲームには、全部で5つのルートがある。
王道の王太子を攻略するヴィアノルドルート
冷静沈着な次期宰相候補を攻略するアレクルート
正義を追い求める人に守られるドリウスルート
自分だけを見て愛してくれるシドルート
犬系男子を攻略するシリウスルート
全てのルートで私は斬首刑にされていた。
罪状も全て一緒だった。
ミア・シュリードに対する度重なるいじめ。階段から突き落とすなどの過度なものは殺人未遂に分類された。
どのルートだろうと、高貴な貴族として育てられたエレオノーラにはむやみやたらに殿方にすり寄るミアが嫌悪の対象となるのは仕方なかった。
やることは間違ったかもしれないが、行動するための大義名分はあったのだと思う。
全てにおいて自ら手を下していたわけではなく、取り巻きたちに命じてやらせていたものも多い。
その過程で、少々脅すなどのことをしていたため、実行していた令嬢たちの罪は軽く、裏で全ての手を引いていた私は婚約を破棄したのち、斬首刑。
ヴィアノルド以外のルートでは、私以外にも悪役令嬢のような立場のものがいる。
それが、婚約者たちだ。
彼女たちは、早々に婚約者たちに見切りをつけようとしていたが、エレオノーラが焚き付け、裏で手を引き、彼女たちは表立ってヒロインをいじめた。
裏に私がいたからこそ、彼女たちは修道院に入れられたり、領地に幽閉されるだけで、命は助かっていた。
「そういえば、出会いイベントは、幼少期だったかしら・・・」
全ルートで共通しているのは、攻略対象者が全員幼い頃にミアに会っていること。
そこまで思い出して、ハッとする。
出会いイベントは、攻略対象者たちが11歳の時、全員で街にお忍びで護衛たちも連れずに秘密裏に城下に出かけた時だった。
迷子になって困っていたヒロインを見つけ、声をかけて仲良くなり、また会おうと別れたが、入学するまで再開することは叶わなかった。
当時平民だったヒロインは、その後にシュリード男爵家に引き取られ、街に出ることは叶わなかったから。
ヒロインは、幼い頃に出会った彼らのことを忘れることなく大事な記憶として持っていたが、彼らは違った。貴族の彼らには、1人の平民の女の子など長期間記憶に残るものでもない。
だが、この出会いイベントは発生していない可能性の方が高いことに気づく。
出会いイベントが起きるのは私たちが11歳の時。
しかし、11歳の殿下は、公務の時以外はずっと私と共に過ごしていた。
だからこそ、全員でお忍びで城下に出かけることはなかったはずだ。
当時の殿下は、そんな時間があるなら私との時間に当てていたはずだから。
私と言うイレギュラーは、思ったよりも仕事をしていたらしい。
側近たちと婚約者たちの関係も、ゲームに比べるととても良好に見える。
アレクとリリアナは、ゲームでは政略的に決められた関係で冷め切っていた。
だが、今の2人は、目線の先が揃っていて、お互いに信頼を寄せているようにも見える。
ドリウスとレイナは、お互いに、すれ違い、それを正すことができていなかった。
ドリウスは、剣術においてレイナを尊敬していたが、自身のある剣術で女性に負けたことを悔しく思っており、それをレイナは知っていた。だからこそ、レイナは剣を置いたのだが、現在では、2人で手合わせを頻繁にしているらしく、ドリウスはレイナに勝てるようになっている。
2人とも、何度も剣を交えることで、お互いの意思確認をしているようだった。
シドとエリスは、幼い頃から交流があり、どこのペアよりも信頼関係があったように思う。
だが、次第にハキハキした性格のエリスの献身をシドはお節介に感じるようになり、エリスの本心を知ろうとすることがなかった。
けど、今のシドは、エリスの献身をありがたいと感謝している。自分が常に魔術に集中できる環境は彼女あってのことだと理解している。
シリウスとシーナは、一番関係性が浅かった。
シリウスは女性に囲まれて育ったち、年上の女性に可愛がられて育った彼は生粋の犬系男子。無理をしてカッコよく見せようとするが、うまくいっていなかった。しかし、オドオドとしたシーナと深く関わっていくことで、無理をしなくても、シーナはかっこいいと思ってくれていることを知って、今ではいい婚約者の関係を築けている。
「油断はダメだけど、心配しすぎるのもストレスになっちゃうかな。」
「エレ、起きているかい?」
突然のノックとお父様の声。
「お父様、どうぞ。」
入室を促せば、ドアが開いて人が入ってくる音がする。
「窓際にエレがいると報告を受けて驚いたよ。いつもなら寝ている時間だからね。何か考え事かい?」
お父様が手を引いてベッドに入ることを促す。
「これからの学園生活の楽しみと不安が、入り混じっているみたいです。」
「大丈夫。父様と母様は何があってもお前の味方だよ。それに、殿下もついていてくださる。心配することなんかない。」
横になって今の気持ちを言葉にすれば、安心させるように頭を撫でてそう言ってくれた。
こうしてお父様に頭を撫でてもらうのは、いつぶりだろう。
小さい頃はお父様に撫でてもらうのが大好きで、よくひっついていたっけ。
「エレが見えなくなってからはこうして撫でることも減っていたね。いつでも甘えていいんだからね。」
撫でてくれる手が気持ちよくて気づいたら眠りについていた。
お父様が幸せそうに私の寝顔を見つめていたことなんて知らずに。




