第六話
「エレ、緊張してるかい?」
「ええ、そうですね。少し、緊張しています。」
大きな扉の前。
この夜会で私は王太子の婚約者として全貴族に知れ渡ることになる。
隣に立つ殿下も、今日、正式に王太子に立太子された。
「でも、殿下が隣にいるから怖くはないですわ。」
「エレ・・・。君の隣は僕だけの特等席だからね。誰にも譲らないさ。」
今回の衣装は行商の日に買った布で作られており、デザイン的にもお揃いになっているらしい。
手触りが良く、軽いため、とても動きやすくてありがたい。
「さあ、2人揃っての初めての夜会だ。いっておいで。」
後ろで待っている陛下に背中を押され、殿下と共に入場する。
「あれ誰?」
「目、見えてないんじゃなくって?」
「やはり、ヴォルフルック公爵家のご令嬢か。」
「え、じゃあ、あれが誘拐て傷物になったっていう噂の?」
拍手に紛れる参加者の声が嫌に鮮明に聞こえる。
殿下にエスコートされるがまま、上座に用意された席に座る。
その後、陛下たちも入場してきて、私たちのファーストダンスが始まる。
「さあ、踊ってくださいますか?エレオノーラ」
「もちろんですわ。王太子殿下。」
広間の中心まで行けば、演奏が始まる。
元々ダンスは得意ではあったが、目が見えなくなってからはあまり触れてこなかった。
見えないからこそ、ターンが難しく、相手のリードがないとうまく動けないから。
ダンスのレッスンの時はいつも殿下のリードで練習していたから、目が見えなくなってからもなんとか踊れるようなった。
「大丈夫、いつも通りにやれば問題ないさ。」
「ええ、殿下のリードを信じております。」
本当に殿下のリードは踊りやすい。
殿下の動きは見なくても手に取るように分かるようになったのは何度も何度も練習に付き合って貰ったからこそだ。
楽しい。
心からそう思えるダンスだった。
殿下とともに一礼して先ほどの席まで戻る。
その後は、王家に挨拶に来る人たちの相手をする。
だけど、私にできるはほとんどないので、ただ殿下の横で微笑んでいるだけ。
「お初にお目にかかります、エレオノーラ・ヴォルフルック様。わたくし、リリアナ・デディールと申します。次期王太子妃の内定、おめでとうございます。」
「まあ、ご丁寧にありがとうございます。どうぞ、わたくしのことはエレオノーラとお呼びください。デディール嬢」
リリアナ・デディールという名前は事前に知らされていた。
殿下の側近の1人の婚約者だと記憶している。
デディール家は我が家と同じ公爵家で、父親同士も幼い頃からの知り合いで気の知れた仲だといっていた。
「あら、でしたら、わたくしのこともリリアナとお呼びくださいな。」
「ありがとうございます。リリアナ様。」
「では、また後ほどお話しできたら嬉しいですわ。」
デディール家の時間が終わるため、リリアナ様も下がっていく。
もう少し、お話ししてみたかったが、また後で行けばいいだろう。
その後も、たくさんの貴族が挨拶に来ていたが、丁寧に私にまで名指しで挨拶をしてくれたのは殿下の側近とその婚約者、我が家と交流のある家だけだった。
ご令嬢たちからは度々刺さるような視線を向けられていたような気がするが、気にしたら負けだろう。
「挨拶は終わりだよ。飲み物でも取りに行こうか?」
「殿下、わたくし、リリアナ様とお話ししてみたいですわ。」
「デディール嬢と仲良くなったんだね。」
リリアナ様の話題を出すと、明らかに拗ねたような声を出す。
私は初めての友人ができそうで嬉しいが、殿下からしてみれば、あまり面白くないのだろう。
私もここまで大切にされていて、殿下の気持ちに気づかないほど鈍感ではないつもりだ。
少し重めの愛だが、それを迷惑に感じたことはない。なんなら、少し嫉妬している殿下が可愛いとすら感じている自分がいる。
「そうですわね、初めてお友達ができそうです。それに、今ならきっと殿下の側近の方達も集まってそうだなと思ったので。」
頻繁に殿下と時間を共にしているが、殿下の側近の方達にはいまだにお会いしたことがなかった。
いかんせん、殿下が紹介してくれないのだ。
「そろそろ側近の方達を私にも紹介してくださいな。」
「必要かい?」
「必要です。わたくしも良好な関係は築いておきたいですし、婚約者の方たちともお友達になりたいです。」
そう説得してみるが、殿下は渋っている。
「エレオノーラ様」
横から聞こえたのは、リリアナ様の声だった。
その次には、近いところから殿下を呼ぶ男性の声。
「チッ。」
ん?殿下今、舌打ちしました?
「お前たち、それ以上エレに近づくな。紹介はするが、勘違いはするなよ。」
「殿下、抱きしめるのはおやめください。人前ですよ。」
不機嫌を隠すことなく声に出し、渡さないとでもいうように私を抱きしめる殿下を諌める。
「ふふ、お二人は仲がよろしいのですね。」
「先ほどのファーストダンスも息ぴったりでしたものね。」
「こんな殿下初めてだ!面白いな!」
「殿下、誰も勘違いなんかしませんから、紹介はしてくださいね。」
こりゃ三者三様の反応だ。
「皆様、初めまして。エレオノーラ・ヴォルフルックと申します。どうぞエレオノーラとお呼びください。」
殿下の腕から抜け出し、声がする方に向かって挨拶をする。
「エレ!・・・全く。」
勝手に挨拶をしたことで殿下は諦めてくれたらしい。
一人一人紹介してくれた。
「女性陣は覚えていてもいいけど、側近たちは別にいいからね。」
「そうもいきませんからね。」
これまた暴論を披露する殿下。
「皆様、これからどうぞよろしくお願いいたします。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
「仲良くなれて嬉しいです!」
みんなの前向きな返事に一安心する。
殿下の側近は4人。全員がゲームの攻略対象だった。
1人目はクールキャラのアレク・ドーラ
宰相を務めているドーラ公爵家の長男。
婚約者はリリアナ様。
2人目は騎士を目指すのドリウス・レキーナ
レキーナ侯爵家の次男。
婚約者はフォード侯爵家のレイナ様。
3人目は魔術師家系のシド・モグリ
代々魔術師団長を務めるモグリ侯爵家の長男。
婚約者はフィン伯爵家のエリス様
4人目は子犬キャラのシリウス・ブリス
ブリス侯爵家の末っ子長男。
婚約者はアルビア伯爵家のシーナ様
ここはみんなゲーム通り。
私の盲目以外にイレギュラーはなかった。
だからこそ、ゲームの強制力を感じてしまう。
ここからは本格的に安心できない。
来年にはストーリーが始まってしまう。




