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盲目少女は転生者  作者: シルクティー


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第五話

目が見えなくなって早4年。

私たちの関係は変わることなく続いている。




今日は殿下に連れられて城下に出向いている。


馬車の中にいても聞こえてくる住民たちの賑やかな声


「そろそろだね。今日はいつにも増して活気がある。」

「そうですね。一年に一回の行商の日ですもの、住人たちが楽しみにして当たり前ですわ。」


そう。今日は大陸全国の貴重なものが集まる行商の日。普段は王国で買えないものが市場に並ぶため、平民から王侯貴族まで、絶大な人気のイベントだ。


ガタリと音を立ててようやく馬車が止まる。


「さあ、お手をどうぞ、エレオノーラ」


殿下の手と足元の感覚を頼りにゆっくりと馬車から降りる。


外に出た途端にクリアに聞こえてくる辺りの楽しそうな声と熱気を肌に感じる。

見えてはいないが、感じれる雰囲気に心が躍り始めるのがわかる。


「ふっ。今にも駆け出しそうだね。さあ、楽しもうか。」

「はい、殿下。」


殿下は私の手を握ったまま歩き出そうとしていたが、ピタッと動きを止めてしまった。


「殿下?」

「僕たちは今日、お忍びできてるんだよ。殿下呼びは禁止。僕のことは、そうだな、ヴィと呼んでね。エレ。」


ヴィアノルドの言葉に、エレオノーラはキョトンとした。

だが、自分の着ている服装がいつもより布の量が少なく軽いことを思い出してハッとした。


「かしこまりました。ヴィ」


少し楽しくなっている気持ちのまま、少し微笑みながら殿下、もとい、ヴィに返事をする。


「ああ、ダメだ。可愛すぎる。」

「何をいっているのですか。行きますよ」


私がヴィの手を引いて一歩踏み出せば、ヴィが急いで着いてくる。




「エレ、これ持ってみて、すごく手触りがいいよ。」

「本当ですね。これで服を作ったらすごく着心地が良さそうですね。」

「じゃあ、これでエレの新しいドレスを作ろうか。店主、これ、購入で」

「え、あの、そういう意味で言ったのでは。」


さらさらとした軽い布の触れて感じた感想を述べただけだったのに、何やら話が飛んでいく。


「ありがとう。」


戸惑っている間に殿下は会計を済ませてしまっていた。


「ヴィ、ドレスはたくさんいただいておりますわ。」

「うん。でも、近々また必要になるからさ。2人分の布を買ったんだ。衣装を合わせて作ろうかなって思ってね。」


必要になると言っても、社交の場が少ないのに、新しいドレスだけが増えていき、まだ袖の通せてないものも衣装部屋には残っているんだ。


だが、今更返品はできないので、諦めるしかなさそうだ。


「あら?何かしら。すごくいい匂いがしますね」

「本当だね。買いに行こうか。」


お店に近づくにつれて、何やら甘い匂いが強くなる。


「これを二つ頼む。」

「あいよ!」


「ちなみに、これは一体?」

「お、餅煎餅を食べるのは初めてかい?東の方の国のおやつでね。まあ、食感と味は食べてごらんよ。」


ヴィから手渡されたものを食べてみる。


バリッと音を立てて硬い食感があったかと思ったが、すぐに高い弾力が出てきた。


「このようなお菓子は初めて食べました!面白いですね!」

「そうだろう!柔らかい餅を硬い煎餅で挟んでるから二つの食感を楽しめていいだろう。今回は砂糖醤油の味だ!!」

「醤油は聞いたことがあります!東の方の国にある調味料だと!これがそうなのですね」


餅に煎餅に醤油。どれをとってもこの国にはないものだから未知の味ではあったが、とっても美味しかった。


「美味しかったです!ありがとうございました!」

「エレが楽しそうにしてくれていて僕も嬉しいよ。」


行商の日には毎年殿下と一緒に来ているが、餅煎餅は初めてだった。

店を出す人は毎年抽選で決まっているため、毎年同じ店が並ぶわけではない。

大きな利益を獲得できるので、少し費用をかけても店を出したいという人がたくさんいる。

もちろん、自国の商人たちも、王都ではなかなか手に入らない商品を仕入れて店を出している。


「エレ、少しは後ろを向いてもらえるかい?」

「え?わかりました。」


周りの声に耳を傾けながら、雰囲気を楽しんでいると、突然ヴィからの要望が飛んできた。


ハーフアップにしている髪の毛に何かをされているようだった。


「うんやっぱりエレには青薔薇だよね。」

「何をつけてくださっていたのですか?」


手を出してみれば、殿下が私の髪から外し、手に乗せてくれる。


慎重に、壊さないように触れてみれば、バレッタのようなものだった。


「ここがバラになっていて、小さなダイヤモンドが散りばめられていてね、細かくキラキラしているんだよ。」


そう言いながら私の指を誘導しながら説明してくれる。

触った感覚を頼りに頭で想像してみる。


「似合っていましたか?」

「もちろん。貸して、つけてあげる。」

「え?買っていないので、ダメですよ。」


ヴィが会計したような会話は一切なかった。


「大丈夫だよ、会計は済ませてある。」

「いつの間に・・・」


エレオノーラは、バレッタをつけてもらいながらふと考える。

(今年こそは殿下に何かお返しできるものをあげたいのだけれど・・・)


毎年一緒に来ているが、いつもプレゼントをもらってばかりで、どうにもお返しができていない。

だが、目が見えないエレオノーラは、無闇に商品に手を出せない。変にぶつかって落としてしまったり、壊してしまったりしたらプレゼントどころではなくなってしまう。


「殿下、何か欲しいものはないですか?」

「ん?僕がほしいのはエレだけだよ。」

「そういうことではなくて。殿下からもらってばかりですわ。お返しをしたいのです。」

「んー。そうだな。エレが僕の送ったものをつけていてくれるのが一番のお返しだよ。」


今年も同じ回答をされてしまった。


だが、ここで諦めるエレオノーラではなかった。


事前に父を通してリサーチはしていた。


「殿下、文房具を買いに行きたいのですが、ありそうですか?」

「ああ、いいよ。」


そうして、私はヴィに文房具店に連れてきてもらった。


「ヴィ、少しここで待っていてください。」

「え?なぜ。危ないから着いて行くよ。」


どうにかしてヴィから離れて1人で文房具店に入りたい。


「護衛騎士の1人を連れていきますから。ね?お願いします。」


お忍びできているため、表立っては見当たらないだろうが、絶対に護衛騎士はいるので、交渉の引き合いに出してみる。


「・・・2人だ。そして15分だけ。これ以上は譲歩できない。」

「わかりました。ありがとうございます。」


なんとかヴィの説得に成功したので、護衛騎士2人を連れて店内に入る。


店舗の中にはインクの匂いが充満していて、父の執務室に入ったときのような感覚になる。


「いらっしゃいませ。」

「あ、すみません。ペンを探しているのですが、何かいいものありますか?」


自力で探すことができないので、店員さんに声をかける。


「ペンですね!それなら、いいものがありますよ!」


「こちらです。」


そう言って、手に乗せられたものは今まで触れてきたペンとは全く違った。

この国のペンは羽ペンが基本だ。


「これは、ペンなのですか?」

「はい、万年筆と言って、中にインクを入れているので、羽ペンのようにいちいちインクをつける必要がないんです。今日の行商の日に合わせて販売を始めた新商品なんですよ!」


15歳になり、書類系の仕事をこなすようになった殿下にぴったりではないか。

父に相談した時、羽ペンは羽が大きくて使いにくそうにしていたと言っていた。

だから、少し羽の小さいものか、ガラスペンなどにしようかと考えていた。


「羽もついていないので、羽が使いにくい方にももってこいのものですよ。」

「これ、お色は何色ですか?」

「そうですね、今あるのは茶色と深めの青ですかね。あ、白も残り1本残ってます!」


「じゃあ、茶色ですかね?」


一番使いやすい色を選ぼうとしていたが、護衛騎士に止められた。


「お嬢様、お待ちください。おそらく、殿下は白の方がお喜びになられるかと。」


少し声を抑えてそう言われた。


「なぜ?」

「白は、真っ白ではなく、少しグレーがかっているので。そうですね、率直に申し上げるのなら、お嬢様の髪の色に近いので、きっと殿下はそっちの方がお喜びになりますよ。」


そう言われて頬に熱が集まる。

確かに、殿下はそっちの方が喜んでくれそうではあるが、渡すのが恥ずかしすぎる。


でも、今までもらっていたもののお返しにしては、それでも足りないくらいだ。

恥ずかしさには目を瞑ろう。


「茶色をやめて、白でお願いします。」

「ありがとうございます!一石だけ、小さな石を埋め込むことができるんですが、何色がいいですか?」

「ブルーダイヤモンド、ございますよ。」


護衛騎士からの援護射撃が止まらない。


「ブルーダイヤモンドをお願いしてもいいですか?」

「かしこまりました!」

「結構お時間かかりますかね?」


おそらくそろそろ殿下との時間が迫っている。


「いえ、5分ほどで簡単に終わりますよ。」

「そうなんですね。では、よろしくお願いします。」




支払いを済まして、商品を受け取り、殿下の元に戻る。


「お待たせしました。」

「エレ、大丈夫?何もなかった?」

「何もなかったですよ。」


声を聞く限りだいぶ落ち着かなかったのだろう。


「そろそろ時間でしょうし、残りも楽しみましょう。」

「そうだね。」


そうして、また手を握られ、歩き出す。


その後は、フルーツジュースを飲んだり、ヴィのお買い物をしたり、あたりの声を聞きながら行商の日を楽しんだ。




そして今は家に帰るための馬車の中。


「殿下、今年も一緒に行ってくださり、ありがとうございました。」

「こちらこそだよ。」


万年筆をいつ渡そうかそわそわして落ち着かない。


「あの、これ、殿下のために買ったのです。」

「僕のために、買ってくれたの?」

「はい、お店の方や、騎士の方のお力を借りましたが・・・」


カタリと小さく馬車が揺れ、前に座っていたはずの殿下を隣に感じる。

すると、優しく抱きしめられた。


「ありがとう。嬉しいよ。今開けてみてもいいかな。」

「あ、え、あの、開けるのは、今じゃない方が嬉しいと言いますか、なんといいますか。」


まさしく私の色のそれを今目の前で開けられるのは恥ずかしすぎて歯切れが悪くなってしまう。


「ええ、どうしても?」


殿下が珍しく拗ねた子供のような声を出す。


「うっ・・・。いいですよ・・・」


殿下からの視線に負けてしまった。


カサカサと音が聞こえるたびにだんだんと恥ずかしさが増していく。


「エレ、これ・・・」


「万年筆というそうですわ。インクが中に入っているので、いちいちインク壺につける必要がないそうですよ」


少し早口になりながら、見た目のことを言われないように説明をしてみる。


「それは便利だね。でも、何よりもこの色が嬉しいよ。」

「うぅ。恥ずかしいのであまり言わないでください。」

「毎日エレを思いながら大切に使うよ。」


公爵家につくまで殿下は本当に嬉しそうに言葉を伝えてくれていたが、私は恥ずかしさでどうにかなりそうだった。


「エレ、今日はありがとうね。大切に使わせてもらうよ。」

「もうわかりましたわ!本日はありがとうございました。」

「ははっ。これくらいにしておくよ。真っ赤だからね。おやすみ、エレ。いい夢を」

「殿下も。いい夢を」


私を揶揄い、楽しんでる様子の殿下を見送り、部屋で今日1日を振り返る。


今年も、楽しい行商の日だった。

いつからか、殿下といくこの日を毎年楽しみにしている自分がいる。


悪役令嬢とのこんなエピソードは存在していなかったが、いろいろなことが設定とずれているので、最近では深く考えることをやめ、今の人生を楽しむようになっていた。


3ヶ月後には殿下の立太子の儀が控えているし、そこで私は婚約者として正式にお披露目される。

その後に行われる夜会の参加はまだ伝えられていないのでわからないが、慣習に習うのであれば、参加の方向で進むだろう。


そして、来年には学園に入学し、学園生活が始まる。



学園に入学してしまえば、乙女ゲームが始まってしまう。



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