第十一話
「お手伝いできなくてごめんなさい。えっと・・・」
「あ、ミア・シュリードと申します。」
「え・・・。あ、ありがとうございます。早く皆さまの声を覚えられるようにいたしますわ。」
同じクラスでも、関わることなく過ごすことができると考えていたけど、甘かったらしい。
「エレ、危ないから座っていて。」
「王太子殿下の手を煩わせるわけにはいきませんので!大丈夫です!」
「見えないレベルまで持ってエレの近くでぶちまけられても困るから。」
席に座らされ、ヴィの気配が離れていった先で聞こえるミアの声。
いやだ。関わらないで。
お願いだから。
2人が関わりを持つことによってゲームの強制力が生じてしまうことに恐れが止まらない。
「ヴィ・・・」
小さく呟いたその声は周りの声にかき消されて誰にも拾われずに消えていく。
「エレオノーラ様?」
近くに寄ってきたリリアナ様の声にハッとさせられるが、「なんともないよ」と伝えるために笑って見せる。
視界を失って初めて良かったと思ってしまった。
ミアの横に立つヴィの姿を見ることがないからこそ、まだ平然を保てている。
「エレ、お待たせ。・・・どうした?」
ああ、私の隠した表情ですら見抜いてしまうヴィには敵わない。
「おかえりなさいませ。本当になんともないんですよ。」
エレは本当に、何にも話してくれない。
だが、今回の選択は少しまずったかもしれない。
「殿下が、エレオノーラ様と離れるとは、珍しいことも起きるんですね。」
「選択をまずった。どんな反応をするか、少し見てみようと思っただけだったんだが。リリアナ嬢、エレの近くにいてくれるかい?」
エレの何かに追い詰められている表情を見てすぐに駆け寄りたい衝動に駆られるが、自分からしたことを途中でやめにするのは流石に憚れた。
「もちろんですわ。あまりエレオノーラ様に心労をかけないでくだいまし。」
「ああ、分かっている。」
ただ、ずっと悩み苦しんでいるエレの悩みを打ち明けて欲しいだけだ。
何に悩み、苦しんでいるのか。それがわかれば、解消することだって可能なんだ。
解消できれば、本当の意味でエレは私に心を開いてくれる気がするんだが。
運ぶ予定だった教科書類を全て運び終え、エレの元に戻れば、表情を作ってこちらを見てくる。
違う。そんな顔を見たいわけじゃない。
エレの本当の笑顔は・・・。
無理に笑うエレの頭を撫でてあげればようやく優しく微笑んでくれた。
ここが教室でなければ綺麗な瞳も笑みの形に変えていただろうに。
「ミア様は、どのような方でしたか?」
こちらを伺うようにオズオズと質問するエレが可愛い。一体何を勘違いして心配しているのやら。
「さぁ?髪色が栗色だったくらいしか印象には残ってないし、全く見てなかったな。」
「瞳はどんな色をしてらっしゃるんでしょうか。顔立ちは?声はとても可愛かったので、お顔立ちも柔らかく可愛い方なのでしょうね。」
目の前にいる僕よりも教室後方に座っているはずの男爵令嬢に気を取られている婚約者は面白くない。
「目の前に私がいるより、さっきの令嬢の方が気になるというのかい?」
「え?そんなわけでは・・・」
戸惑うエレの可愛さに耳元で囁けば、顔を真っ赤にさせる。
「殿下、ここは教室ですので、お戯は程々にしてくださいね。」
エレをからかっていると隣に座るアレクから注意を受ける。
「はいはい。続きは2人っきりの時に、ね?」
「2人の時でもダメです!」
ようやくいつもの調子を取り戻してくれた。
エレの困り悩む姿は、誰も見たくないんだよ。
この国の女神だって望んでないだろう。




