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冷徹営業トップは私の限界オタクでした  作者: アル


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第24話「最愛の『推し』になりました。」

静かな夜の公園に、草むらから虫の声が響いている。

陽菜子はついに、自分の気持ちを神崎へ伝えた。


――一人の女性として見てほしい。


神崎は暴れる心臓を押さえるように、胸元をぎゅっと掴んだ。

気を抜けば、その場で膝から崩れ落ちてしまいそうだった。


けれど、自分も伝えなくては。


陽菜子さんは逃げずに伝えてくれた。

なら、自分も逃げてはいけない。


「陽菜子さん。」


神崎は陽菜子へ一歩近づいた。


触れていいのか、一瞬だけ迷った。

それでも神崎は、震える手で陽菜子の頬に触れた。


陽菜子はびくっと肩を揺らしたが、その手を拒むことはしなかった。


「俺はとっくに、陽菜子さんのことを一人の女性として見ていました。」


陽菜子が目を見開く。


「でも怖かったんです。この気持ちを知られたら、陽菜子さんが離れていくんじゃないかって。」


陽菜子は何も言わず、頬に触れる神崎の手へそっと自分の手を重ねた。

その温もりを感じた瞬間、神崎の目がわずかに見開かれる。

逃げない。

それどころか、陽菜子はまっすぐに自分を見つめてくれている。


挿絵(By みてみん)


「陽菜子さんが勇気を出して俺に気持ちを伝えてくれて、死ぬほど嬉しいです。だから、俺も伝えます。」


神崎は一度、息を整えた。


「春宮陽菜子さん。」


「……はい。」


「俺は、陽菜子さんを……愛しています。」


陽菜子の目が大きく見開かれた。

そして、神崎自身も固まった。


(……は?俺は何を口走っているんだ?好きの前に愛してる!?なぜ段階を踏めなかった!!)


陽菜子の顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。


「ち、違っ……いや、違わないんですが!」


神崎は慌てて言葉を重ねた。


「好きです!陽菜子さんを、一人の女性として好きなんです!」


「……はい。」


「愛していることに訂正はないんですが……その、順番を完全に間違えました。」


先ほどまで覚悟を決めた表情をしていた神崎が、一転してしどろもどろになる。

そんな神崎を見て、陽菜子はくすっと笑った。


「じゃあ……私も好きで、ちくわくんも私が好きです。」


陽菜子は自分で言いながら、恥ずかしくなったのか少しだけ視線を伏せる。


けれど、すぐに神崎を見つめ直した。


「私たち、両想いってことですよね?」


「……両、想い。」


神崎が呆然と呟く。

その言葉を理解した瞬間、とうとう膝が耐えきれなくなった。

陽菜子の頬から手が離れ、神崎はその場へ崩れ落ちる。

両手で顔を覆い、そのまま動かなくなった。


「ち、ちくわくん!? 大丈夫ですか?」


陽菜子も慌ててしゃがみ込み、顔を覆っている神崎を覗き込んだ。


「待ってください……。まだ処理できてません。」


「え?」


「陽菜子さんが俺を好き……俺も陽菜子さんが好き……両想い……。」


一つずつ確認するように呟く。


「はい。」


陽菜子は楽しそうに笑った。


「……私も、ちくわくんが好きです。」


「っ……!」


神崎の肩が大きく跳ねた。


「何度言うんですか……」


「だって、ちゃんと伝えてなかったので。」


「これ以上言われたら、本当に立てなくなります……。」


「もう座ってますよ?」


「そうでした……。」


陽菜子がまた小さく笑う。

その笑顔を見て、神崎もわずかに口元を緩めた。


ずっと、見ているだけで幸せだった。


陽菜子が笑って会社へ来てくれるだけでいい。

自分の存在なんて知らなくてもいい。


そう思っていたはずだった。

けれど、今は違う。

神崎はゆっくりと顔から手を離した。


「……陽菜子さん。」


「はい。」


「俺、今日はもう限界なんですが……これだけはちゃんと言いたいです。」


神崎はふらつきながら立ち上がった。

陽菜子もそれに合わせて立ち上がる。

二人は再び向き合った。


「俺はずっと、陽菜子さんが幸せなら、それだけでいいと思っていました。」


神崎は陽菜子をまっすぐに見つめる。


「でも今は……見ているだけでは足りません。」


陽菜子の胸が大きく跳ねた。


「もっと近くにいたいです。あなたの隣にいたい。」


神崎は少しだけ緊張したように息を吸った。


「推しとしてじゃなく、一人の男として……俺と付き合ってください。」


陽菜子は一瞬だけ目を見開いた。

付き合う。

その言葉を聞いて、ようやく今までのやり取りが現実として胸へ落ちてくる。

自分と神崎が、恋人になる。

そう思った途端、また頬が熱くなった。

それでも陽菜子は、嬉しそうに笑った。


「はい。よろしくお願いします、ちくわくん。」


「…………。」


神崎が固まる。


「ちくわくん?」


「俺が……陽菜子さんの……彼氏……?」


まだ信じられないように、神崎はその言葉を噛みしめる。


「じゃあ私、もうちくわくんの『推し』じゃなくなるんですか?」


「まさか」


神崎は即答した。


「恋人になっても、陽菜子さんは一生俺の人生最推しです。」


「恋人で、推し?」


「はい。恋人で、人生最推しです。」


陽菜子は堪えきれず笑った。


「ふふっ。ちくわくんらしいですね。」


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