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冷徹営業トップは私の限界オタクでした  作者: アル


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12/31

第12話「 同担拒否だと思っていた感情は、別のものでした。」

水曜日。今月は、今日を含めて残り三日となっていた

営業成績は普段なら神崎がわずかにリードしている時期だが、今月は寺内が一歩先を走っていた。

陽菜子のそばにいるため外回りを減らしていた影響もあり、今月は寺内に抜かされていたのだ。

それでも、神崎は少しも惜しいとは思わなかった。営業成績の一位より、陽菜子の隣で仕事ができる時間のほうが、彼にとっては何倍も価値があった。


しかし、営業部長はそれを良くは思っていなかった。

「神崎君、そろそろ君も外回りに出てはもらえないか?」


「昨日は白石さんの商談に同行しましたが。」


「だが、昨日の契約実績は白石につけたんだろう? このままでは、君自身の成績がいつもよりかなり低いままだぞ。」


昨日まとまった案件は、今朝正式に契約が成立していた。


「しかし……」


神崎はちらっと陽菜子を見る。

視線に気が付いた陽菜子は口を開いた。


「神崎さん。私はもう大丈夫ですよ。心配せず、外回りに行ってきてください。 」


「春宮さんもそう言っていることだし、今日は外回りを頼むよ。月末まで残り三日だからね。 」


部長はそう言い残し、会議室へ向かっていった。

神崎はあからさまに肩を落とした。

陽菜子も、神崎が昨日の白石の告白にどう返事をしたのか知りたかった。

今日ランチを一緒にとって聞こうかと思っていたが、神崎の営業成績に影響が出るのだけは避けたかった。

神崎はなおも陽菜子を見つめていたが、彼女の笑顔に押し切られるように、渋々うなずいた。


「春宮さん、ランチは一緒にとりましょうね。絶対お昼には帰ってきます。」


神崎は名残惜しそうに荷物をまとめ、外回りへ出かけた。


昼前、寺内は神崎よりも先に帰ってきた。


「春宮ちゃん、この領収書の処理も分かんない。教えて 」

「寺内さん、これは前にも説明しましたよ?」


「春宮ちゃんの説明、分かりやすいからさ」


寺内が陽菜子のデスクへ片手をつき、楽しそうに笑う。

陽菜子も呆れながら、小さく笑い説明を始めた。

そのときだった。 営業部の扉が開いた。


「……ずいぶん楽しそうですね」


神崎が営業鞄を手に、二人を冷たく見つめていた。


「寺内さん。その領収書を渡してください。私が確認します 。」


「今、春宮ちゃんに教えてもらってるところ。」


「私が確認します。」


神崎は同じ言葉を繰り返し、陽菜子と寺内の間へ静かに入り込んだ。

「えー神崎は冷たいから、優しい春宮ちゃんがいい」


駄々っ子のように寺内は言った。神崎をからかっているのだ。

神崎の眉がピクリと動く。

寺内はニヤニヤしていた。


「まー、いいや。とりあえず、聞きたいことは聞いたし。」

「ありがとね、春宮ちゃん」


そう言うと、寺内は神崎へ近づいた。

寺内は神崎の肩を掴むと、陽菜子から少し離れた場所へ引き寄せ、耳元で小さくささやいた。


「お前、油断してると、春宮ちゃんに俺のほうが懐かれちゃうぞ 。」


神崎は一瞬、固まった。


次の瞬間、その表情からすっと温度が消えた。


「……冗談でも、やめろ」


今度は神崎が寺内の肩へ手を置いた。その指先には、無意識のうちに強い力がこもっていた。


「うわ、こわっ」


寺内は小声で笑うと、満足そうに営業部を出ていった。


神崎の脳裏に、寺内へ向けて小さく笑った陽菜子の顔が浮かぶ。


寺内が陽菜子へ近づくことなら、今までも嫌だった。

自分以外の誰かが彼女を推すことも、気安く触れようとすることも許せなかった。


けれど――。


(陽菜子さんが、俺より寺内に懐くのが嫌だと思うのは……なぜだ)


胸の奥に残る、名前の分からない感情。

それは、今まで感じていた同担拒否とは、どこか違っていた。


挿絵(By みてみん)

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