第10話「公園で助けた日の真相を知りました。 」
五月の暖かな風が吹く土曜日。
陽菜子は経理部の同僚・恵美と遊ぶため、待ち合わせ場所のある駅前へ出かけていた。
自分の服も見たかったため、約束の二時間前に到着していた。
土曜日のショッピング街は、多くの人で賑わっていた。
(ふぅ、たくさん買っちゃったな。とりあえず、駅のロッカーに荷物を預けとこう。)
駅に着き、陽菜子は駅のロッカーに買った服の紙袋を入れた。
腕時計をちらりとみた。
(まだ待ち合わせ時間まで一時間もあるな。)
カフェを探そうと、あたりを見渡すと見覚えのある後ろ姿が目に入った。
見覚えのある赤茶色の髪。
神崎だった。
若い女性数人に囲まれていた。
声をかけようと陽菜子は神崎へ近づいた。
「お兄さん、かっこいいね。遊ぼうよ」
「断る。」
神崎は声を低くして、女性たちを追い払おうとしていた。
「えー!ひどーい。遊んでよ~。」
女性たちは余計にしつこくなっていった。
腕を神崎に絡ませてくる。
「触るな、うせろ。」
神崎は女性たちへ冷たく言い放った。
「ちくわくん…?」
神崎のうしろから、陽菜子は話しかけた。
神崎はびくっと肩が跳ね、振り返った。
「ひ、陽菜子さん!?」
神崎は私服姿の陽菜子を見た瞬間、膝から崩れ落ちた。
「私服の陽菜子さん…かわいすぎる。天使ですか?俺は夢でも見てるでしょうか。休日に陽菜子さんに会えるなんて…」
顔を真っ赤にし、両手で顔を覆った。
女性たちは「なにあれ、きも」と、神崎の異常行動に引いて去っていった。
「大丈夫ですか?」
陽菜子は神崎に手を差し伸べた。
せっかく差し伸べられた手を掴まないわけにもいかず、神崎は顔を真っ赤にしながら手を掴み、立ち上がった。
「ちくわくん。」
陽菜子は笑っていた。けれど、いつもの柔らかな笑顔とはどこか違っていた。
「は、はい…。」
「嫌だったのはわかります。でも、もう少し優しい断り方のほうが安心ですよ。」
(…陽菜子さんが怒ってる。)
「はい…。気をつけます。」
シュンと肩を落とす神崎。
「わかってくれたなら、よかったです。」
陽菜子は優しい笑顔に戻る。
「今日恵美と遊ぶ約束してて、まだ待ち合わせまで時間があるんです。もし、ちくわくんがよかったらカフェに行きませんか?」
(休日デート……いや違う!カフェ!カフェです!落ち着け俺!)
「もちろんです!」
(よかった。いつもの陽菜子さんに戻った。)
神崎の顔もぱあっと明るくなった。
二人は駅近くのビルに入っている、三階のカフェへ向かった。
アイスコーヒーを注文し、街を見渡せる窓際のカウンター席に並んで座った。
「ちくわくんって、女性によく声をかけられるんですか?」
「たまにありますね…。」
まじまじと陽菜子は神崎の顔を見る。
「確かに。ちくわくんって整った顔してますもんね。」
隣でじっくり見られて、神崎は耳が赤くなる。
「陽菜子さんに、そう言ってもらえて光栄です。」
「前から聞きたかったんですけど、あの日どうして公園で怪我してたんですか?」
「以前、声をかけてきた女性をいつものように追い払ったんです。その女性が知り合いの男たちに、俺から襲われそうになったと嘘をついたらしくて……。後から公園へ呼び出され、殴られました」
「相手は複数でしたし、こちらが手を出せば会社にも迷惑がかかると思って……」
(情けない…こんな話したくないのに、陽菜子さんには隠したくない。)
「そうだったんですね。大変な思いしましたね。」
陽菜子はアイスコーヒーに視線を落とす。
「…陽菜子さんが傷の手当てをしてくれたおかげで、すぐ治りました。その節はありがとうございました。」
(あの日も、もっと違う断り方をしていれば……。)
「いえ…。やっぱり、あの断り方は良くないですね。ちくわくんの身を守るためにも。」
「そうですよね…。今後、気をつけるようにします。」
その後は、他愛のない会話をした。
陽菜子の好きなものや、普段の休日の過ごし方。
今まで知らなかった彼女のことを一つずつ知る時間が、神崎には何よりも幸せだった。
幸せな時間は、あっという間に過ぎた。
陽菜子は腕時計を見て、はっとしたように目を見開いた。
「もう、こんな時間ですね。お付き合いありがとうございました」
「こちらこそ、陽菜子さんとお話しできて嬉しかったです」
「ふふっ。私もです。またお話ししましょうね」
陽菜子はそう微笑んでから、席を立った。
「そろそろ恵美との待ち合わせに行かないと」
陽菜子は神崎へ軽く手を振り、カフェを後にした。
神崎は、その後ろ姿から目を離すことができなかった。
(心臓が、うるさい……)
陽菜子の姿が見えなくなっても、神崎の鼓動はなかなか静まらなかった。
(「また」って言いましたよね……? 次もあるということですか!?)
神崎は一人になったカウンター席で顔を覆った。
今日も、しばらく眠れそうになかった。




