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『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』  作者: 月神世一


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EP 9

マシな憲法(約束の条文と、老害たちの悲鳴)

 昭和21年(1946年)、秋。

 焼け残った帝都・東京の、帝国議会議事堂。

 その重厚な本会議場の空気は、かつてないほどの紛糾と、そして『圧倒的な恐怖』によって支配されていた。

「……だ、断じて反対である! このような『男女同権』や『家族生活における個人の尊厳』などという条文は、我が国の美しき家族制度(家父長制)を根底から破壊する! これを起草したGHQの意図は……!」

 演壇で唾を飛ばして反対演説をぶっていた保守派の老政治家が、ふと、議場の二階――来賓席ギャラリーを見上げ、ヒッと情けない悲鳴を上げて言葉を詰まらせた。

 そこには、軍用外套を羽織り、欄干に赤錆びた『鉄パイプ』を立てかけた巨漢――内閣特別防衛補佐官、坂上真一(牟田口)が、鬼神のごとき眼光で議場を見下ろしていたのだ。

 彼の傍らには、GHQの通訳として議会を視察に来ていた22歳のベアテ・シロタ・ゴードンが、緊張した面持ちで座っている。

「……おい、ジジイ」

 坂上の低くドス黒い声が、マイクを通さずとも議場全体にビリビリと響き渡った。

「その条文は、俺が『一文字も変えずに通す』と約束したもんだ。……時代遅れのメンツで四の五の抜かしてねぇで、さっさと『賛成イエス』の札を上げろ。それとも、議事堂の外で待機させてる俺の若いコマンドーに、物理的に首を縦に振らせてもらいてぇか?」

「ひっ……! ぼ、暴君だ……議会への不当な圧力……!」

「圧力じゃねぇよ。『業務命令』だ」

 坂上は、欄干に身を乗り出し、プレイヤーズのタバコの煙を議場に吐き出した。

「お前ら古い政治家が、ぬるま湯でふんぞり返ってたツケ(戦争)を、誰が払ったと思ってる。……これからの日本シマを回すのは、お前らじゃねぇ。新しく権利を与えられた、女や若者たちだ。……邪魔する老害は、俺が全員この鉄パイプで引退させてやる」

 大本営を物理で制圧し、原爆を叩き落とし、GHQのケーディスすら論破した『理性の化け物』による、完全なる議会制圧。

 軍事独裁と言われればそれまでだ。しかし、坂上はこの「圧倒的な暴力(権力)」を、自らの私腹を肥やすためではなく、極めて現代的で合理的な『人権システム』を日本にインストールするためだけに、惜しげもなく使い切ったのだ。

 老政治家たちは、恐怖にガタガタと震えながら、次々と賛成の白票を投じていく。

「……ムタグチ閣下。本当に……本当にありがとうございます」

 来賓席で、ベアテが感極まって涙を拭った。

 彼女が徹夜で書き上げた、日本の女性たちを救うための第14条(法の下の平等)と第24条(両性の本質的平等)。それが今、坂上の強引な庇護の下で、一文字の修正も許されずに日本の最高法規として可決されようとしていた。

「礼には及ばねぇよ。等価交換ディールだって言っただろ」

 坂上は、議場から視線を外し、退屈そうに首の骨を鳴らした。

「お前がケーディスの草案に仕込んでくれた『第9条の抜け穴』のおかげで、この国は自衛隊(イージスの盾)を合法的に持てる。……GHQアメリカの犬にはならず、自分の国を自分で守れる『マシな国』になれたんだ。……お前の理想ポエムが、この国を救ったんだよ」

 ベアテは、深く、深く頭を下げた。

 昭和21年11月3日。

 『日本国憲法』公布。

 それは、アメリカの押し付けでも、軍部の暴走でもない。

 防衛省J5の官僚が、未来の地政学と法解釈の裏技を駆使し、理想に燃える若き女性のジョーカーを使って強引に生み出した、極めていびつで、しかし最も現実的な『真の独立国家へのパスポート』であった。

     * * *

 数日後。

 帝都の陸軍第一病院、最上階。

 すでに「特別防衛補佐官」としての執務室は霞が関の真新しいビルに移転していたが、坂上はこの古びた病室の一角を妙に気に入っていた。

「……荷物の整理は終わりましたか、閣下」

 白衣姿の雪川美奈子が、淹れたてのコーヒーを机に置きながら尋ねる。

「ああ。……大英帝国をシバき、大本営のダニを潰し、原爆を落として、憲法まで書き換えた。……俺の『防衛計画(仕事)』は、これで全部終わりだ」

 坂上は、軍服の襟元を緩め、コーヒーの香りを深く吸い込んだ。

 窓の外からは、復興に向けて槌音を響かせる東京の活気が聞こえてくる。焼け野原ではなく、軍事力と人権を残したまま、逞しく立ち上がろうとする新しい日本の姿だ。

「……総理大臣には、本当になられないのですね」

 美奈子が、少しだけ寂しそうに微笑んだ。国民の圧倒的な支持を集める彼がその気になれば、長期政権を築くことなど容易かったはずだ。

「何度も言わせるな。俺は政治家オモテの泥被りなんざ御免だ」

 坂上は、傍らに立てかけてあった『鉄パイプ』を手に取り、その赤錆びた表面を指でなぞった。

「システム(憲法と自衛隊)は完成した。外敵を弾き返す盾も、暴走を止めるルールも用意してやった。……ここから先は、俺みたいな暴力バグが居座っちゃ駄目なんだよ。……日本の連中が、てめぇの頭で考えて、このシマを回していかなきゃならねぇ」

 現代からやってきた防衛官僚にして、元暴走族総長。

 理性の化け物は、自らが作り上げた「完璧な国家システム」から、最後に自分自身という『最大のイレギュラー』を排除アンインストールする決断を下していた。

「さあ、店じまいだ」

 坂上は、軍用外套を翻し、ドアに向かって歩き出した。

 その背中に宿っていた『阿吽の仁王像』の殺気は、今はもう、嘘のように静まり返っていた。

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